本当の名前は【第５人格】 (ページ1)

今日:16 hit、昨日:0 hit、合計:4,429 hit

序幕ページ1

「アンタ宛にと届いていたよ。受け取っておくれ」

見慣れないシダの封蝋を不思議に思いながらも、渋々と手紙を受け取る。
重厚そうな見た目に反して重さは無い。何かが入っているのかと疑いそうになる。

机に置かれている開封用のナイフで蝋を切り、中に入っていた手紙に目を通した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【悲哀の代弁者】と名高い貴女を荘園へとご招待します。

ナイチンゲール

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

宛名はなく、内容はそれだけだった。
何故さっきの支配人が自身に宛てられたものだと言い切れたのかが不思議である。

荘園、と呼ばれるものがどこにあるのか考えていると、持っている手紙に紙が挟み込まれていることに気付いた。

その紙には、英国某所のであろう森の一角の地形と、赤いバツ印が書かれていた。
英国だと分かったのは、地図の上に書かれていた荘園のであろう名前を知っていたからだ。

エウリュディケ荘園

悪い……黒い噂ばかりが独り歩きをしている悪名高き荘園。

『良い話が書けそう』

生憎噂話の類を恐れるような人間ではない。新作小説のネタが尽きていたので丁度良い。

そう思ったが吉か。ベッドの下からトランクを引っ張りだすと、部屋中の私物を詰め込んだ。
私物と言っても、服一式が３つと残りは文房具に過ぎない。

準備が終わるまでには１０分と掛からなかった

半年ぶりに客室の扉を開け、鍵をかけて下の階へと向かった。
余談だが半年前、というのは自身がこの部屋を借りた日のことである。

『行く宛が見つかりました。半年間お世話になりました』

先程手紙を持ってきた支配人にお礼を言うと、両手をブンブンと振って弁解？をされた

「別に気にしなくて良い。私は客を泊めて食べてる人間だから、頭を下げられる道理はないよ」

泊まっていた宿を出て、漠然とした足取りで舗装された石畳を進む。

『船着き場を探さないと………』

少し不思議な、とある女性の物語