第４８話 『ブラウンシチュー』 ページ6
言い、アイテムウインドウに移動し、《ラグー・ラビットの肉》をオブジェクトとして実体化させ、陶製のポットに入ったそれをそっと目の前のテーブルに置く。
『えー？ ……ええっ！！ こ……これ、S級食材の……』
(人１)は震える手でそれを持ち上げ、中を覗き込んだ。
『う、わー……これが伝説のS級食材……。……これ、どんなふうに料理したらいい？』
キリト「シェフのお任せコースで頼む」
(人１)の反応が予想以上だったので、胸内で満足しながら答えた。
『うーん、そうね……じゃあシチューにしよっか。
そのままキッチンへ戻る(人１)の後を俺も慣れたようについていく。
キッチンは広々としていて、巨大な薪オーブンがしつらえられた傍らには、料理道具アイテムが数々並んでいた。(人１)はオーブンの表面をダブルクリックの要領ですばやく二度叩いてポップアップメニューを出し、調理時間を設定したあと、棚から金属製の鍋を取り出した。ポットの中の生肉を移し、いろいろな香草と水を満たすと蓋をする。
『ほんとはもっといろいろ手順があるんだけどねー』
料理をすると時々出てくる口癖だ。曰く、《SAOの料理は簡略化されすぎててつまらない》んだそうだ。
文句を言いながら、鍋をオーブンの中に入れて、メニューから調理開始ボタンを押す。三百秒と表示された待ち時間にも彼女はてきぱきと動き回り、ある程度ストックしてあるらしい食材アイテムを次々とオブジェクト化しては、淀みない作業で付け合わせを作っていく。実際の作業とメニュー操作を一回のミスも無くこなしていくその動きに、いつもながら俺はついつい見とれてしまう。
わずか五分で豪華な食卓が整えられ、俺と(人１)は向かい合わせで席についた。眼前の大皿には湯気を立ち上げるブラウンシチューがたっぷりと盛り付けられ、鼻腔を刺激する芳香を伴った蒸気が立ち上っている。照りのある濃密なソースに覆われた大ぶりな肉がごろごろ転がり、クリームの白い筋が描くマーブル模様が実に魅惑的だ。
俺たちはいただきますを言うのももどかしくスプーンを取ると、SAO内で存在し得る最上級の食い物であるはずのそれをあんぐりと頬張った。口中に充満する熱と香りをたっぷり味わってから、柔らかい肉に歯を立てると、溢れるように肉汁が迸る。
第４９話 『この世界に』→←第４７話 『うっかりのんびり屋さん』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 323人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：レイ | 作成日時：2016年8月29日 16時
