第４７話 『うっかりのんびり屋さん』 ページ5
俺は階段を登りドアの横にあるインターホンを押す＿＿なんてことはせず、ドアを三度ほど叩く。
『はーい』
鈴の鳴るような愛らしい声。機械で生成されたものだと解っていても、彼女のものだと思うとそれすらどうでも良くなるのはきっと俺だけじゃない。
きぃ、とドアの蝶番の悲鳴が聞こえた後、開いたドアの隙間からひょこりと覗いた顔に、俺は頬を緩ませた。
キリト「よ、(人１)。晩飯の材料持ってきたぜ」
『キリト！ いらっしゃい』
ドアを叩いたのが俺だと判った時の(人１)の表情は、まさに歓喜溢れるというものだった。俺もそれに釣られて口角が上がる。
ドアをくぐり、見えてくるのはリビング兼ダイニングと、隣接したキッチン。そこは明るい色の木製家具がしつらえられ、統一感のあるオフホワイトのクロス類で飾られている。
全て過度に装飾的ではなく、実に(人１)らしい居心地の良さそうな雰囲気を漂わせている。俺のねぐらも(人１)にコーディネートを任せており、こことは違いアイボリーブラックで整えられた、こちらも実に居心地の良い仕上がりになっており、(人１)さまさまとしか言いようがない。
『ちょっと待っててね』
言って、(人１)はキッチンへと向かう。俺はそれを見ながらふかふかのソファにどさっと沈み込む。
今日の彼女の部屋着は正直目に毒だ。レースがあしらわれた膝上丈のシフォンワンピースは、(人１)が着るだけでミニウエディングドレスに見えて仕方がないのだ。
俺たちの肉体は3Dオブジェクトのデータにすぎないとは言っても、二年も過ごしてしまうとそんな認識は薄れかけて、今も(人１)の惜しげも無く剥き出しにされた手足に自然と目が行ってしまう。
視線を逸らそうとも考えない俺がその背中をぼーっと見つめていると、ふと振り返った(人１)は手を口元に当てくすりと笑って。
『もー、いつまでそんな格好してるのよ？』
あ、と彼女の言葉に目を見開き、慌ててメニュー画面を呼び出すと、革の戦闘用コートと剣帯などの武装を解除した。
『ホントに、戦闘以外ではうっかりのんびり屋さんなんだから』
くすくすと笑う彼女に頬が赤くなるのが自分でも分かった。
キリト「う、うるさい……そ、それより今日の晩飯見たら驚くぞ？」
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作者名：レイ | 作成日時：2016年8月29日 16時
