第６３話 『完璧だ』 ページ21
『よかったぁ、喜んでもらえて』
キリト「…………すごい。完璧だ。これ売り出したら絶対儲かるぞ。正直言って、昨日のラグー·ラビットのシチューよりも今日のサンドイッチのほうが旨かった」
腕を組みながらしみじみと言うと、
『……えへへ……』
(人１)は先ほどよりも顔を赤く染めて俯き気味に笑みを浮かべた。
キリト「いや、やっぱりだめだ。俺の分が無くなったら困る」
『……あははっ！ もー、食べたくなったらいつだって作ってあげるから』
最後のひと言を小声で付け足すと、(人１)は横に並んだ俺の肩に、そっと寄りかかった。ここが死地の真っ只中だということも忘れてしまうような、穏やかな沈黙が周囲に満ちた……その時。
不意に下層側の入り口からプレイヤーの一団が鎧をガチャガチャ言わせながら入ってきた。俺たちは瞬間的にパッと離れて座りなおす。
現れた六人パーティーのリーダーを一目見て、俺たちは肩の力を抜いた。男は、この浮遊城で(人１)と並びもっとも古い付き合いのカタナ使いだったのだ。
クライン「おお、キリト！ (人１)！ しばらくだな」
俺たちに気付いて笑顔で近寄ってきた長身の男と、腰を上げて挨拶を交わす。
キリト「まだ生きてたか、クライン」
『久しぶり！ クライン』
クライン「相変わらずキリトは愛想のねえ野郎だ。(人１)はまた一段と美人になっちゃって！」
『ふふっ、お世辞なんて言っても何も出ないわよ！ クラインも相変わらず元気でよかったわ！』
(人１)の台詞が終わるか終わらないうちに、後ろに下がっていた五人のパーティーメンバーがガシャガシャ駆け寄ってきて、全員我先にと口を開いて話しかけ始めた。
《風林火山》のメンバーは、全員がSAO以前からの馴染みらしい。クラインは、独力で仲間を一人も欠くことなく守り抜き、攻略組の一角を占めるまでに育て上げたのだ。二年前＿＿このデスゲームが始まった日、俺が怯み、拒んだその重みを、彼は堂々と背負い続けている。
胸中深くに滲む自己嫌悪を呑み下した、その時。
先ほど連中がやってきた方向から、新たな一団の訪れを告げる足音と金属音が響いてきた。やたらと規則正しいその音に、(人１)が緊張した表情で俺の腕に触れ、ささやいた。
『キリト、《軍》が……』
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作者名：レイ | 作成日時：2016年8月29日 16時
