第５９話 『青白い炎』 ページ17
(人１)がぎゅっと俺のコートの袖を掴んだ。
『どうする……？ 覗くだけなら、なんとか……』
その台詞には不安を色濃くにじませている。
キリト「……ボスモンスターはその守護する部屋からは絶対に出ない。ドアを開けるだけなら多分……」
自信無さそうに消える語尾に、(人１)は唾を飲み込む。
キリト「一応転移アイテム用意しといてくれ」
『う、うん』
頷くと、スカートのポケットから青いクリスタルを取り出した。俺もそれにならう。
キリト「いいな……開けるぞ……」
右腕を(人１)に引っ張られたまま、俺は結晶を握りこんだ左手を鉄扉にかけた。現実世界なら今頃掌が汗でびっしょりだろう。
ゆっくり力を込めると、俺の身長の倍はある巨大な扉は思いがけず滑らかに動き始めた。一度動き出したあとは、こちらが慌てるほどのスピードで左右の扉が連動して開いていく。俺と(人１)が息を詰めて見守る中、完全に開ききった大扉はずしんという衝撃と共に止まり、内部に隠していたものをさらけ出した。
＿＿と言っても、内部は完全な暗闇だった。俺たちの立つ回廊を満たす光も、部屋の中までは届かないらしい。冷気を含んだ濃密な闇は、いくら目を凝らしても見透かすことができない。
キリト「…………」
俺が口を開こうとした瞬間、突然入り口からわずかに離れた床の両側に、ボッと音を立てて二つの青白い炎が燃え上がった。思わず二人同時にビクリと体をすくませてしまう。
すぐに、少し離れた場所にまた二つ炎が灯った。そしてもう一組。さらにもう一組。
ボボボボボ……という連続音と共に、たちまち入り口から部屋の中央に向かってまっすぐに炎の道ができ上がる。最後に一際大きな火柱が吹き上がり、同時に奥行きのある長方形の部屋全体が薄青い光に照らし出された。かなり広い。マップの残り空白部分がこの部屋だけで埋まるサイズだ。
(人１)が緊張に耐えかねたように、俺の右腕にぎゅっとしがみついた。だが俺にもその感触を楽しむ余裕など微塵もない。なぜなら、激しく揺れる火柱の後ろから徐々に巨大な姿が出現しつつあったからだ。
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作者名：レイ | 作成日時：2016年8月29日 16時
