十二話 『人間の感情』 ページ12
新一side
『教えてください、新一くん。《わたし》って__《何》なんでしょう__?』
彼女の言葉に、俺は口にしようとしていた言葉が喉につっかえてしまう。
彼女の俺を映す紅色の瞳が、今度は首飾りの写真ではなく、《俺》に、すがっている。
その瞳から滲み出ているものは、《哀愁》、《恐怖》、《困惑》、__《絶望》。
俺から視線を逸らすことなく、彼女は続けた。
『わ、わたし、《わたし》が__ワカラナイ……! 何もワカラナイの……! ワカラナイことを教えてくれる《仲間》も……! 《兄さん》も……! 《松陽先生》もっ、もういない……! 誰もっ……誰もいない……っ!!』
悲痛な叫び声。頭を抱え、ベッドの上で蹲る彼女。
__なんて、深い《悲しみ》なのだろうか。何故だろう。彼女の《悲しむ》姿はとても美しいのに__これ以上、彼女の《悲しむ》姿は、見たくないと思うのは。
『目の前でっ……! 全部、全部消えた……っ!! 《手》は届いた筈なのにっ……!!』
__ああ。彼女の声。美しい声。その声は、聞くもの全てを飲み込んでしまうほどの《哀愁》に染まりきっている。
彼女は今、吐き出しているのだ。目の前で、大切なもの全てを失ってしまった《悲哀》を、《憎悪》を、《絶望》を。
来たばかりの時は、ただただ悲しむだけだったものが、今は、俺にすがり、手が届かなかった悲しみを、手を届かせられなかった自分への憎しみを、自分から全てを奪っていった世界への絶望を、俺に吐き出している。
__不謹慎だが俺は今、とても嬉しく思っている。惚れた女性に頼られて嬉しくない男など居るものか。居てたまるか。
『もっ……いや……っ!!』
俺は、浮かれていた。浮かれすぎていた。彼女の、《その言葉》を直接耳にするまで、俺は彼女の__いや、《人間の感情》を、なめすぎていた。
__死にたい……っ__
新一「__っ……__!!!」
『誰かっ……《わたし》を……殺してぇ……っ!!』
__それ以上、彼女の口から《その言葉》を聞きたくなかった。耳を、塞いでしまいたかった。だが、彼女の《それ》を見た瞬間、体が勝手に動いていた。
『っせんせ……! たすけて……っ!! __っ!?』
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凛 - 面白かったです!ゆっくりでもいいので更新待ってます (2022年12月5日 18時) (レス) @page33 id: 0db889cc25 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - かっちゃんさん» コメントありがとうございます。この作品を読んでいただき誠にありがとうございます。これからもご愛読頂けますよう努力致します。 (2020年5月5日 16時) (レス) id: 59a8307c61 (このIDを非表示/違反報告)
かっちゃん(プロフ) - この小説が好きすぎて何十回と読んでます!!! (2020年5月5日 1時) (レス) id: df35ba2e7b (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - もちもちのだいふくさん» コメント並びにご感想誠にありがとうございます。もちもちのだいふくさんの応援は必ず作者の後押しになります。今後ともどうぞご贔屓によろしくお願い致します。 (2020年3月8日 0時) (レス) id: 59a8307c61 (このIDを非表示/違反報告)
もちもちのだいふく - コメント失礼します! この小説すごく面白いし、見やすくてすごいと思いました! 更新頑張ってください(*^^*) (2020年3月5日 21時) (レス) id: 3ed7899564 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レイ | 作成日時:2015年12月19日 13時