嫌いになれたら (ページ4)

今日:17 hit、昨日:3 hit、合計:12,197 hit

帰宅、そして家出ページ4

俺が帰る頃には辺りはもうすっかり暗くなっていて、中学生がひとりで出歩いていたら補導されるような時間帯になってしまっていた。けれど俺は何食わぬ顔で帰宅する。

『ただいまー』

いい気分転換ができて若干ご機嫌な俺を再び不機嫌とさせたのは、俺が帰ってからの一郎の第一声だった。

「今までどこほっつき歩いてたんだ！」
『乱数さんとシブヤにいたけど？』
「心配してたんだぞ！二郎だって三郎だって！」
『知らないよ。第一そんなの頼んでないし』

家族を大切にしている一郎からしたら、俺の態度は悪そのもので、そんな俺の頼んでいないという言葉が余程許せなかったのか、一郎は俺の胸ぐらをつかんだかと思ったら頬を殴ってきた。口の中が切れて、じわじわと血の味が広がる。パッと離され、一郎からふらふらと二、三歩離れた。

『なにすんだよ…！』
「どれだけお前が俺達の事嫌ってようが兄弟ってことに変わりはねぇんだ！頼まれてなくても心配するのが兄なんだよ！それを頼んでないの一言で片づけるな！」
『るっせぇな！事あるごとに兄貴面してきて、うぜえんだよ！俺はお前らの事を兄貴だなんて思ったことは一度もねえ！！』

この時、俺も一郎もお互い完全に頭に血が上っていたんだと思う。冷静な判断もできないまま家を飛び出して、無我夢中であてもなく走った。イケブクロから離れたくて、ただただ走った。
気が付いたらそこはヨコハマだった。そういえば制服から着替えてすらいなくて、今見つかったら補導されるなーとびくびくしながら歩いていた。

「貴方、中学生ですか？こんな時間に何をしているんです？」

なるだけばれないようにと下を向いて歩いていると、頭上から綺麗なテノールが降ってきた。どこかで聞いたことがあるようなその声に顔を上げると、その声の主はMAD TRIGGER CREWの二番手、入間銃兎だった。

「…ああ、山田Aか。イケブクロの。こんな所でどうしたんだ？取り敢えず、山田一郎に―」
『待って！あのさ…一晩だけ、泊めてくんね？家出してきちゃって、行くとこねぇんだ』
「仕方ない…何か事情がありそうだし、近くに車を停めてあるから、話は帰ってから聞く」
『…ありがと』

ただ素直に礼を言っただけなのに、入間さんは何故か呆けた顔をしていた。

「貴方、意外と素直なんですね」
『それ、どういう意味？』