弟の想い ページ21
ｰ左馬刻 side-
『兄さん…』
Aのそんな切なげな呟きに、目を覚ました。気づけばそこは病院で、上半身を起こそうとすれば身体の至る所に鋭い痛みが走った。
「ああ、起きたのか、左馬刻」
俺様のベットの横でパイプ椅子に座り無駄になげえ足を組む銃兎に一番に声を掛けられた。右手を誰かに掴まれているような感覚がして、そっちに視線を飛ばすと、俺の手を掴みながら眠るAの姿があった。うなされているようで苦しそうにするAの頭を撫でてやれば、すぐにそれが柔らかい笑顔へと変わった。
「Aくんに感謝しとけよ、お前の事つきっきりで看病してたんだから」
「そうかよ。つーか、なんでテメェがここにいんだよ。仕事はいいのか、巡査部長サマ？」
「うるせぇな、こんな状態のAくんを置いてはいけねぇだろうが。大体な、左馬刻…泣いてたんだぞ、この子」
「…は？」
俺の煽るような発言に明らかにめんどくさそうにする銃兎の口から語られたのは、にわかには信じがたい内容だった。あのAが泣くだなんてそんなこと…
「お前が運ばれたって連絡があった日の夜、俺と理鶯も駆け付けたんだ。んで、神宮司先生に案内されてこの部屋に入ってきたら、Aくんが泣いてた」
「なんでだよ…？」
「本気で言ってるのか？テメェが無茶して心配かけさせるようなことしたからだろうが」
確かに自分でも無茶はしたと思ってる。別に自分がした行動について悔いはねーが、申し訳ないとは思ってるし、反省もしてる。
けど、まさかアイツを泣かせることになるとは思わなかった。
「銃兎、ナイフ持ってこい」
「何に使うんだよ」
「落とし前をつける」
「バカか、ンな事したらこの子が余計悲しんで終わりだろ」
「けどなんかしねーと気が済まねーんだよ」
「じゃあ、回復したらどっか好きなとこにでも連れてってやれ。そういうのが一番喜ばれるだろ」
「おう。…サンキュな」
「やけに素直だな。事故ったときに頭でも打ったか？」
「んだとコラ」
人が折角素直に感謝してやったっつーのに揶揄ってきやがって。けど、それよりも、いるはずの奴がいないことに疑問を抱いた。
「理鶯は？」
「お前が早く回復するように特製ドリンクを作るってでてったぞ」
「銃兎」
「なんです？」
「テメェも道連れだ」
「ふざけんな、俺はもう帰るぞ」
「Aを置いてはいけねーんだろ？」
「チッ」
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作者名：眠兎 | 作成日時：2022年1月6日 21時
