認知済 -まふまふ- (ページ11)

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嘘ページ11

ただいま〜という声が聞こえて、慌てて玄関に向かう。

いつだったか、帰ってきたAにおかえりと叫んで済ませた時、ゴンッッととてつもない音がして。
急いで駆け寄ると玄関でズッコケていた事があった。

それ以来MELL終わりは必ず玄関まで迎えに行くようにしている。

ま「おかえり、今日もあんまり酔ってないんだね」

いつも……というより、何ヶ月か前まではほぼ毎日酔っ払って帰ってきていたのにも関わらず、最近の彼女はほぼ酔わずに帰ってくる。

気付いたら戻っていた黒髪の頭は、ひゅっと視界から消えて、代わりにこの間贈ったばかりの香水の残り香が鼻を掠めた。

「ん〜、通販のやつやって、富士急のやつもチョローっと考えたくて控えた」

ま「あぁ……ごめんね、何でも手伝うから。
無理はしないでねって言っても、無理させてるの俺か」

座り込んで厚底のサンダルを脱ぎ捨てた彼女にそう言うと、いきなりパチンっと膝を叩かれた。

ま「何？！」

「何？？じゃなくて。
アタシやもん、無理なんかしやんし、出来る。
さ、どいたどいた〜。
今日は生存確認キャスの日やねんから」

しっかりとした足取りで、寝室へ消えたA。

出来る。と言い切った彼女の目は何処か嘘をついてるように見えた。
無理なんかしない。と言ったけれど、疲れ切っているように見えた。

どれだけ問い詰めても、きっとさっきと同じような言葉を吐いて、ボクに嘘をつくんだろう。

何だかとても無力な気がして。
それでも絶対に支えてやるんだと心を奮い立たせる。

Aと出逢ってからも、随分と悲惨な性格をしていた。
承認欲求の塊で、間違いなく社会不適合者で。
ボクなんかが……とか毎日のように考えていたのに、Aも付き合い始めてから、考え方は180度変わった。

以前のボクなら支えてやるんだ。とか考えられない。
ボクにはなにも出来ないんだって決めつけて、うじうじ悩んでたかもしれない。

メットライフドームでのライブだって、話を貰った時に即答なんか出来ず、悩んだりしたかもしれないし、断っていたかもしれない。

やりたいです。とすぐに答えられたのは、ボクみたいな人間でも誰かのために出来ることがあるって分かったから。

今日同棲を始めていたことをみんなに知られたわけだし、キャスの最中に邪魔したって問題ない。とキッチンに立って、彼女が好きな紅茶を入れて。

ノックもせずに、笑い声が聞こえる寝室へ足を踏み入れた。