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「ありがと。
でももうおまえに会うことはないかもしれないなあ」
「なんで?また来るよ?」

「おれはずっとここにいるから、この家ができてからもずっと見てた。
家と住人と、ときどき来るおまえたちも」
「そうなんだ」
「いまおまえと話せるのは伝えることがあるからだ」
「なに?」

「おれはあと何年かしたら枯れる」
「え!?」
「誰かに言っといてくれ。花がつかなくなったら切っていいよって」
「…枯れちゃうの?」
「うん」
「なんか肥料とかいっぱいやってもだめ?」
「うん。たまにおまえのじいちゃんがそうしてくれるけど、
食っても食ってもどっかに漏れて、力入んねえのよ」
「……」
「おまえが泣かなくてもいいんだよ」
「…悲しくないの?」
「おまえたちに花を見せられなくなるのは残念かな。でも土に還るのは自然の理だから悲しくはないよ」
「それまでにまた会える?」
「…さあな、風邪ひくから家に戻んな」
「おれほんとにこの桜の木が大好きだよ」
「だから知ってるって」

そう言ったその人の笑顔が、夢と現実の狭間で揺らめく。


はっと覚醒して、その光景を昨日のことのように思い出して。
ひとつはっきりわかったことがあった。


「……伊野尾ちゃんじゃねーか」

桜の木だというその人は、
伊野尾ちゃんにそっくりだった。

その後、その季節に行ける時間がなくなって、
なにもかも忘れていたおれに思い出すきっかけを作ってくれたのは、
いよいよ切られることになったからなのか。
薄情な『自称友達』に別れを告げに来てくれたのか。

そっくりな伊野尾ちゃんの口を借りて。


同時に、伊野尾ちゃんに対する複雑な感情の発端が少しわかった気がした。

まあ発端はそれだとしても、彼に対する気持ちはまた別の部分で少しずつ育ってきたわけだからあんま関係ないけど。
なんて、忘れてた言い訳を、自分と桜の木にして。

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作品ジャンル:ファンタジー
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fde(プロフ) - 文頭に消し忘れが!見苦しくてすみませんでした。 (2020年1月19日 20時) (レス) id: 86fd086565 (このIDを非表示/違反報告)
fde(プロフ) - miporiさん» 感想あお礼が遅れてすみません。読んでもらえただけでも嬉しいのに感想までいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます。近々続きをお届けできると思いますので、そのときはまたよろしくお願いします。 (2020年1月19日 20時) (レス) id: 86fd086565 (このIDを非表示/違反報告)
mipori(プロフ) - けいさん» こんばんは。fdeさんの書かれるお話が凄く素敵で更新される度にとても大事に読んでいます。胸がギュンっとトキメいて読んでいて楽しいです!やまいのの続きがとても気になります!続きを心待ちにしています。 (2019年11月17日 23時) (レス) id: bde1645221 (このIDを非表示/違反報告)
fde(プロフ) - 勝手に書いてるものに素敵と言ってもらえるこの嬉しさがどうか伝わりますように。あなたが考えるたぶん100倍超は嬉しいです!ありがとうございます。 (2019年11月13日 18時) (レス) id: 86fd086565 (このIDを非表示/違反報告)
けい(プロフ) - 素敵な作品に出会えて本当に良かったです(泣)応援してます!! (2019年11月13日 17時) (レス) id: a01bbaa610 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:fde | 作成日時:2019年3月23日 15時

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