てきとう短編置場(ym×in)

7【Side:in】 ページ17

『……伊野尾ちゃん、あのね』



山田に呼ばれた。




今日のメインである山田の話も聞いたし、
おかげで思いがけずおれの杞憂、というほど大袈裟なもんでもないけど、それも晴れてあとは帰るだけ。

おれのこのちょっと拗れた気持ちを、さりげなく会話に混ぜるって、具体的にはどうすりゃいいんだとか、
そういや夢の桜目線で見た山田可愛かったけど、
もうあの夢の続きは見られないんだなとか、思考が錯綜する。

ほんとに不思議だけど、桜がその記憶を教えてくれたのがおれでよかったな、なんて自分本位なことを考える。
ああ、こういうかんじで話せばちょっとはなんかしら伝わる？
いや、伝わんねえか。

そんなことを企みつつ車に向かってたところに声をかけられて、ちょっと驚きはしたけど、何気ない素振りで振り返る。

「…ん？なに？」

目が合った。

なんか思い詰めたような目をして黙り込んだ山田は、

「…うん、このあと時間あんならどっかでメシでも食ってかない？」

って、あとでおれが言おうと思ってたことを言ってくるから、もちろん快諾した。

けどそれ言うのにそんなに思い詰めないとだめ？
なんかすごくおれに気を遣ったんだろうなって思うと、
なかなか距離を縮めるのは難しそうだ。

車を走らせながら、

「何食べたい？」

視線を前方に固定したまま山田が聞いてくる。

腹減ったし、思うままあれもこれもと口に出して、山田の意見と調整しようと思ったら、おれの希望が優先とか言うし。
今ならなんでも美味しくいただける自信に満ち溢れてるから困るな。

窓の外を眺めてた視線をちょっとだけ運転席に向けると、
今更ながら普段よりかなり近い距離に山田がいて。

来たときは目的もわかんねえし少し緊張してたから、
外を見てる余裕も距離感を意識してる余裕もなかった。
不安要素のない状態で山田と飯ってなんか不思議。
山田にとってはビジネスランチみたいな感覚だとしても、おれが楽しいからまあいっか。
時間的にはランチってより早めの晩飯なのは置いといて。

なんにしよっかな。

なんか普段あまり利用することがない、街道沿いでよく見るファミレスみたいなとこ行きたい気持ち。

和食かラーメンの二択までは絞った。
食欲的には甲乙つけ難いものの、ここは和食系のほうが、話す時間を多少長く取れそうだって理由で不戦勝じゃね？なんて思った記憶はある。
ふっと意識が戻って、何度か、あ、いま寝てたと思った記憶もある。

寝てるふりして薄目で隣の山田を見たりもした。
普通に運転してるだけできれいとかどうすんだおまえ。

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