6 ページ16
…無理だな。
どう考えても無理。
でも、それを覆せる手立ても、
気持ちを話す機会を失ってしまったいまとなっては思いつかない。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
ほんとにものごとはタイミングが大事だ。
なんであのとき一気に言ってしまえなかったんだおれのバカ。
もしその結果、なにか異次元のいきものを見る目で見られたとしても、冷たく『もうあんまり話しかけてくんなよ』って言われたとしても、おれの気持ちは伊野尾ちゃんの心のどこかに残ったはずなんだ。
いや、伊野尾ちゃんは意味合いは同じでも、もう少し柔らかい言いかたをしてくれると思うけど。
…でも、話しかけんなって真顔で言われるとこ想像したら一気に血の気が引いた。
想像だけで涙出そう。
寝てる伊野尾ちゃんの横でそんなこと延々と考えてたら、
「…っ…くしゅ」
小さなくしゃみ。
ヤバい、風邪でもひかせたら大変だ。
「伊野尾ちゃん」
何度か呼びかけたけど起きない。
どんだけ眠り深いんだよ。
とにかくせめてベッドで寝てもらおうと、両脇に手を入れて抱き上げ左肩に担ぐ。
いわゆる俵抱きでベッドに運んだ。
想像より軽くて、もっとメシ食わせたいななんて、
行動はなるべく事務的なつもりだけど、気持ちは自分に素直だ。
降ろすとき、ちょっと「…んぅー」みたいな声が漏れて、どきっとしたけど、やっぱり起きる気配はなかった。
おれのベッドですやすや眠る伊野尾ちゃん。
せめて想い出に動画も写真も撮りたいけど、なんだか証拠を残すのはマズいと思って、おれの頭のなかにだけ永久保存した。
目が覚めて、なんでソファーで寝てんだおれ、って疑問と同時進行で、そうだ!伊野尾ちゃん!って思い出して飛び起きる。
慌てて寝室に駆け込むと、すでにベッドは空だった。
人の気配ないから、寝てるおれを起こさないように静かに帰ったらしい。
あー、せめて朝メシ食べさせたかったな、なんて考えながらソファーに戻ってスマホをチェック。
連絡来てた。
『昨日はいろいろありがとう
声かけたけど起きないからこのまま帰るね
山田のチャーハンほんとうまかったよ
ごちそうさま』
できればドアを出て行くところまで見届けたかったけど、
昨日はいろいろ感情の乱高下もあったし、
自分で思うより疲れてたんだろう。
でも落ち着いて想像してみたら、
ドアが閉まった瞬間の寂しさがリアルすぎてヤバい。
考えたところで事実は変わらないけど、
おれも仕事に行く準備しなくちゃと思いながら、なかなか立ち上がることができなかった。
―END―
264人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
fde(プロフ) - 文頭に消し忘れが!見苦しくてすみませんでした。 (2020年1月19日 20時) (レス) id: 86fd086565 (このIDを非表示/違反報告)
fde(プロフ) - miporiさん» 感想あお礼が遅れてすみません。読んでもらえただけでも嬉しいのに感想までいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます。近々続きをお届けできると思いますので、そのときはまたよろしくお願いします。 (2020年1月19日 20時) (レス) id: 86fd086565 (このIDを非表示/違反報告)
mipori(プロフ) - けいさん» こんばんは。fdeさんの書かれるお話が凄く素敵で更新される度にとても大事に読んでいます。胸がギュンっとトキメいて読んでいて楽しいです!やまいのの続きがとても気になります!続きを心待ちにしています。 (2019年11月17日 23時) (レス) id: bde1645221 (このIDを非表示/違反報告)
fde(プロフ) - 勝手に書いてるものに素敵と言ってもらえるこの嬉しさがどうか伝わりますように。あなたが考えるたぶん100倍超は嬉しいです!ありがとうございます。 (2019年11月13日 18時) (レス) id: 86fd086565 (このIDを非表示/違反報告)
けい(プロフ) - 素敵な作品に出会えて本当に良かったです(泣)応援してます!! (2019年11月13日 17時) (レス) id: a01bbaa610 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:fde | 作成日時:2019年3月23日 15時