白い花々 【暗殺教室】 2

蝶々 ページ19

「認めてしまったからには
もう後に戻れない」



あの子は口を尖らせて
不満げに漏らした



「自分の気持ちを、隠していたものを、
掘り起こして認めてしまったのね」



自分よりも高い場所から飛び降り
小さな身長の女の子は私を見上げた


「なんて残酷な女」


女の子は歯を剥いた


「認めてしまったら、
そこから先は生き地獄だというのに」


別の場所から同じ声が聞こえた
目の前にはまだ女の子がいる


声の聞こえた方向へ振り向くと
少し背の高くなったベリーショートヘアの
あの子が後頭部に手を回し
にたりと嗤う



「でも殺すでしょう？」



その殺すという相手は、
浅野先生ではない


私が恋をしているとその気持ちを
認めてしまった相手に対して、だ



「殺すよ」



私は答える
1度持った殺意は過去であれど
現在消失していれど
それは、殺意を抱いた事は事実なのだから
今更引き返せない



「もう、戻れない」



10年前にも
愛する家族も



「殺したら、私も死ぬわ」



それでいい



「…ごめんね」



過去の後悔に



「…」



彼女達は何も言わずに、
ただ私を見つめるだけ


＿＿＿＿＿




目を開けるとそれが夢だったのだと気づく
いや、夢だと気付いていたけれど
知らないふりをした


あの子達とはつまり、過去の私だ
家族を一気に失った時の私
暗殺者として生きていた時の私
戦場を駆けていた時の私
現在の私


全部合わせて私
全部、私
自問自答のようなもの


それはあの日、あの病室で
彼女達の幻覚に心臓を貫かれてから
よく見るようになった


今は夢で見ることの方が多くなったが


…



思わず、鼻で笑ってしまった
やはり私は精神的にかなり弱いらしい
過去の自分達と会話をしてしまったり
その幻覚を見てしまうくらい


そのくらい、
追い詰められているのだろう



「さて…どうするかなぁ」



夢の話はさておき
浅野先生の事を本格的に考えないと


ベッドから起き上がり
寝癖のついた毛先を指に絡ませる


この前の中間テストではっきりわかった
あの人は自分の主義のために
どんな事でもすると


中間テストでＥ組は全員50位以内を
目指していたと聞く
あの人がそれを耳にしたとすれば
放っておく事は出来ないだろう


テストの範囲を大幅に変更し
それらはＥ組には全く伝えられなかった
結果、Ｅ組は変更された範囲部分が
解けず惨敗


変更部分はあの人が自ら教壇に立ち
授業を行ったが
敵ながら見事だと認めざるを得なかった

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