葬儀屋の隣は納棺師【原神】 (ページ4)

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美食家 △ ページ4

何分か経った頃、早足で進んだ道の先には、見慣れた店があった。

良い意味で着飾らない外装で、その名の通りどんな人でも来れるような場所。

「んー！いい匂い！いつ来てもいいね〜」

『…私、米まんじゅう食べたい』

万民堂に来るときは、いつもこれを食べていた。私の中ではもう定番メニューと化していて、5ヶ月くらいこれ以外頼んでいないから " いつもの " なんて洒落たセリフを言えばこれが出てくるのだろう。

「了解！んじゃ、私はエビ蒸し餃子ね」

『言うと思った』

エビ蒸し餃子は胡桃の好物、そして香菱の得意料理。私は食にあまり執着がないから、これといった好物はない。なのに胡桃は、いつも私におすすめの食べ物を教えてくれたりした。

万民堂に入れば、私と胡桃は向かい合わせの席に座る。いつも通り瞳を輝かせながらそそくさとやってきた香菱に目をやれば、今日も元気そうだと安心する。

「しゃーんりーん！」

「＿＿いらっしゃい！メニューが決まってたら言ってね！」

『こんにちは、香菱。えっと…エビ蒸し餃子1つと、米まんじゅう1つお願いしてもいい？』

「うん！もちろん！作ってくるから待っててね！」

嵐のように厨房へと戻った香菱を見送って、胡桃の方へと顔を向ける。頬ずえをついた胡桃が此方をじっと見ていたので、私はふいに気恥ずかしくなってしまった。

『そんなに見つめないでよ…何かいやだ』

「あっはは！Aったら照れちゃってー」

胡桃は私の額に手を寄せて " えいっ " だなんて言いながら、額を爪先で弾いた。地味な痛みを感じる肌に、私は守るように手の平を被せる。

そんな事をしてじゃれあっていたら、あっという間に料理が運ばれ、食事を共に取る。美味しそうな香りが鼻をくすぐって、両手で饅頭を手に取り口元へと持っていく。かじれば饅頭と米の甘い味が交わって、一気に口の中へと広がる。

「A〜。はい、あーん」

『ん？ん、あー……んむ』

そんな素人の食レポを心の中で並べていれば、胡桃が餃子の半分が摘まれた箸を私の唇につけた。いつものことなので、私は口を開いて、餃子を口内に含む。

やっぱり、胡桃がこれを好きな理由が分かる。

そうやって些細な美食を楽しみ、私と胡桃は万民堂を後にした。