守んなくていいから ３

［１６］戻らない感情、戻せない体 ページ21

渡辺side









「あれ。しょっぴー薬飲んだ？」


「あ、忘れてる」


「やっぱり？
まだ間に合うから飲んでおいで」



プロモーションの時期が終わり、
テレビに続々と俺達の出演番組が流れ始めた頃。


俺達は生配信に向けて
打ち合わせやリハーサルを繰り返し行っていた。


今は昼休憩が終わってライブパートの確認。

まだ生配信の現場は使えないから、
いつものレッスンするスタジオで
照明やカメラ割りと振り付けの話し合いをする。



「ん、」



カバンにしまい込んでいた処方箋を出して
処方された薬の分を水に流し込んだ。



……あの日。

異様なあの時間が過ぎ去ったあと。


俺はちゃんとマネージャーに病院へ連れられて、
貧血と胃腸炎を診断されて薬を貰って帰っていた。

流石にあの時のあと車に戻るのは少し遅れたけれど、
特にマネージャーから不審がられることもなくだ。


そのお陰で休まされることも回避しながら、
ゆっくりだが体調もマシになりつつあった。


ちなみに、診察を受けた時は
勘づかれないように出来るだけ口頭で説明したり、
なるべく肌を見せないようにして済ませたのは内緒。



まあ、その時手が震えてしまっていたことは
自分自身も知らないフリを貫かせてもらうけど。

てかこれはもう俺も仕方ないことだと思ってる。


それくらい単純に。

近寄られること、触られることが怖いんだ。



正直、前からその症状に悩まされてはいたものの、
最近はそれがまた輪をかけて酷くなっていて。


今やメンバーから不意に触られたりするだけで
早まりだす呼吸や心臓を抑えるのがやっとの現状だ。

それも体調が悪いからと
誤魔化してるから大丈夫なだけであって、
不審に思われるのはそろそろ時間の問題でもあった。



「ふぅ……」


「翔太？ いける？」


「あ、ごめん。大丈夫」



カバンに処方箋を戻して
呼ばれた照へ返事をする。

そして自分もすぐにポジションへ行こうと
体の向きを変える直前。


不意に明るくなった携帯に意識が反応してしまった。



「……っ、」



すぐに暗くなる画面にはもう何も表示されず、
スタジオの電気が反射しているだけ。

それでも呼び出しの類が送られてきたメッセージには
『戸日野さん』の名前がちゃんと表示されていて。


だんだん早まる呼吸に釣られて
心臓の音が大きくなってしまう。

もう何度も訪れているその感覚に
未だ慣れることが出来なくて
静かに血の気が引いていく手を握りしめた。

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