43 ページ43
・
夏休みが、終わる。
引越し、当日
トラックを見送り、私も両親と一緒に車に乗り込んだ。
「よし、じゃあ出るぞ。」
車が、動き出す
少ししか居なかった小さな一軒家を、私は小さくなるまでずっと見ていた
数日前に両親から、私の通っていた高校に転校届を出したという話を聞いた
新しい病院がある遠い街で、
もし可能なら、新しい高校に通うことになるらしい
「夏も終わるっていうのに、暑いわね。」
「本当だな、少し温度下げるか」
運転席と助手席で、そんな会話をする両親
私の方は、もう感情が死んでしまったように、
ただずっと、窓の外を見つめるだけ。
思い出すのはやっぱり、どうしても、
ふたりきりで過ごした、
あの真っ白で、暖かい夏の日々。
きっともう関わることもない、
だけど何よりも大切で、何よりも愛おしい、
たったひとりの、かけがえのない存在。
そこでふとまた、ある疑問が湧く
「……ねえお母さん、私、転校するんだよね？」
「ええ、そうよ」
突然声をかけられて、ぴくりと肩を震わせながら、
母親が少しだけ、私を振り返った
「………じゃあその、私の転校を、クラスの子たちは知らないの？」
これも、少し不思議で聴いただけだったのに、
またしても、両親の顔がこわばる
「………、」
「………もしクラスの子たちが転校のことを知ってたなら……何か、お別れの言葉じゃないけど。そういうの、なかったのかな、って。」
それは、私が知り得るはずもないこと。
ケータイの充電も切れているし、開かない
直接話せない状況にはあるけれど、両親のところに何か連絡が来てたりしないのかな、って、
気になって、聴いただけなのに。
重苦しい沈黙が、私たちを包み込む
ふたりが何かを、隠している気がした。
「……ねえ、教えてよ、お母さんたち。」
「………、」
「何か大きなこと、私に言ってないこと、あるでしょ？」
重くて、苦しくて
だけど知りたい。
強くそう思って、なぜかその時、
廉さんの柔らかい笑顔が、頭をかすめた。
「………教えて。お願い」
「………、」
「私、忘れてることを、思い出したいの、」
突然ぶり返す、何か大切なものを忘れている感覚
なぜか懐かしく感じた、廉さんの香り
私をちらりと振り返った父親はなぜか、
泣き出しそうな、表情だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 817人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
詩愛(プロフ) - zzzさん» こんばんは！お久しぶりです！また読んでいただけて嬉しいですありがとうございます^^ 少しずつですがお話をまだまだ書いていますので、楽しんでいただけたら幸いです。こちらこそいつもありがとうございます！ (2021年10月30日 23時) (
レス) id: 3902959af9 (このIDを非表示/違反報告)
zzz(プロフ) - 詩愛さん、こんばんは。大変ご無沙汰しておりましたが、詩愛さんの作品の香りを嗅ぎ付けてやって来てしまいました( ￣▽￣)まずは第一章お疲れさまでした。これから先の展開もドキドキさせていただきますね。いつもありがとう。 (2021年10月29日 19時) (レス) @page50 id: f02299600f (このIDを非表示/違反報告)
詩愛(プロフ) - ひだかくんさん» いつもありがとうございます！いろいろ気になることがたくさんありますよね……ぜひ今後の展開にも期待してくださいね。ありがとうございます、無理せず更新いたします！ (2021年8月4日 23時) (レス) id: 3902959af9 (このIDを非表示/違反報告)
ひだかくん(プロフ) - 高評価が一回しか押せないのがすごく悔しいです(ToT)廉君と主人公ちゃんがこれからどうなっていくのかなとか、きちんと思い出せるのかなとかめっちゃ気になります笑 作者さんも無理のないようにしてくださいね！ (2021年8月3日 23時) (レス) id: 10f3d7dc91 (このIDを非表示/違反報告)
詩愛(プロフ) - ミツキさん» ありがとうございます！まだまだ先は長いので、今後もどうぞよろしくお願いいたします！ (2021年7月26日 15時) (レス) id: 3902959af9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：詩愛
| 作成日時：2021年7月24日 16時
