君とひまわりと私 K.T (ページ1)

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あれは、遠い日の記憶。

「私、引越すことになっちゃった。」

春が近付いた週末の、ある昼下がり

小さな公園の滑り台の下で、私は彼にそう告げた

「……え、引越すの？」

「うん、」

頷いた私を見て、彼はその手に握りしめていた木の枝を、ぽとりと落とす

引越し。その単語をお互いが知っているかもあやしいくらい、幼かった私たち

彼は大きな瞳で私を見つめて、動かない

「………じゃあ、遊べなくなるってこと？」

「そう、お家が遠くなっちゃうから。」

彼はゆっくりと瞬きをして、その視線を落とした

実は私は、彼の名前を知らない。

だけど、まだ小学校に入学すらしていなかった私にとって、彼ははじめての友達だった。

お互い家が近いのか、たまたま近所の公園で遊ぶ時間が重なることが多くて、

それぞれひとりきりで遊んでいた私たちは、自然と一緒に遊ぶようになって。

友達の名前を聞く、という概念すら、この頃はきっとなかった

それほどに幼くて、未熟だった私たちの関係。

「いつ、いなくなっちゃうの？」

「あとちょっと。」

具体的な日付けもわからなくて、曖昧にしか答えられなかった私を、彼はじっと見つめる

「………もう、会えないの？」

私たちには、切なすぎる現実

彼は最後に、すがるように私にそんな質問をした

公園の砂が舞い上がって、目をぎゅっと閉じる

「………わかんない。」

また、曖昧な答え方しかできない。

正直この頃の私には、未来のことは何もわからなかった

どこに引越すのかも、引越し自体がどんなものなのかも。

幼い頭では、何一つきちんと、理解できていなかったから。

「……そっか。」

彼は小さな声でつぶやいたあと、

何かを決心したような表情で、一歩私に近付いてきた

「手、出して。」

「え？なんで？」

「いいから。」

彼に促され、恐る恐る自分の手を差し出す

すると彼はポケットから何かを出してきて、

私の手の上にそっと、その何かを置いた。

「これ、あげる。」

「……これって、」

手のひらに乗せられた小さなそれ

それは間違いなく、彼が少し前に宝物だと言っていたもので。

それを返そうとする私に、彼は激しく首を振る

「それ俺のお守りだから。持ってて」

「でも、」

「……絶対またいつか、俺と会ってね。」

「あ、待って！」

そのまま公園を出て行ってしまう彼

人生で初めて、別れを経験した日の記憶。