蒼く、染まれ Y.J（２） (ページ10)

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「あのチョコのイベント、まだやってんのかな」

夜の真っ暗な空を見上げた君と、酔っ払いの私

「知らない、」

水を一口ぐっと飲んで、ガンガン痛む頭をおさえながら応える

あの日から何年も経った今、君がこうして記憶を呼び戻すのは、どうしてなの。

「……なんか、もうそのイベントには興味ありません、って顔に書いてあるよ」

私の顔を覗き込んで笑う君だけど、

やっぱり、私には君がわからないよ。

「………興味ないもん、」

別に強がりでもなんでもない

正直な気持ちを伝えると、君は少し驚いたみたいだった

「なんでよ、もうチョコはいいの？」

「うん、もういい」

「飽きた、とか？まあそれもあるか。高校の時あんなに食べてたし、それに、」

「違うよ、」

君がまた、記憶を呼び覚ます前に言葉をさえぎる

「………チョコ、もう全然好きじゃないの、」

私の言葉に君が小さく、え、と声をもらした

「………そう、なの？」

「うん、むしろ食べたくない、」

「………そっか、」

悲しそうに視線を落とす君

そんな君は、知ってるかな。

もともと私はチョコが確かに好きだったけど、

君と食べるチョコは甘くて、甘くて、

君のおかげで、もっとチョコが好きになったこと。

そして君と気持ちが離れた時に、

ひとりで食べたチョコが苦くて、苦くて、

君のせいでチョコを嫌いになったこと。

視線を落としたままの神宮寺くん

そうだよね、私が君をわからないのと一緒で、

君が、こんな私の気持ちを知るわけ、ないよね。

「………ごめん、チョコ好きじゃないの知らなくて、買ってきたりして」

「…………」

神宮寺くんの瞳が、いつかのように揺れる

「それ、俺が食べる、」

私の手からチョコを取ろうと、君が手を伸ばした瞬間に、

「………待っ、て」

なぜか反射的に君の手を避けて、私はチョコを握りしめた

止まる、2人の動き

「………なんで？好きじゃないんでしょ、もう」

君から溢れた言葉は、チョコではなく、まるで私たちのお互いへ向けられた気持ちのようで。

「………好きじゃないよ、だけど、」

君はやっぱり、知るわけない。

「………神宮寺くんが、くれたんじゃん、」

そう言って包装を破いて、ひとかけら口に放り込んだ、

私のぐちゃぐちゃな気持ちを。