蒼く、染まれ Y.J（２） (ページ22)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:120,213 hit

71 ページ22

・

「いらっしゃいませ～」

スタジオに向かう途中で、寄ったコンビニ

陳列棚をぐるぐる回りながら、君への差し入れを選ぶ

温かい飲み物のところに行くと、すぐに目に入る期間限定のお茶

忘れてない、忘れてないよ。

君がいつかの冬、これが飲めるから冬は楽しみなんだ、と、

嬉しそうにこのお茶を買っていたこと。

毎年この時期になると、これを見るたびに君を思い出してたっけ。

「…………」

私は1番手前にあるそのペットボトルを、迷わずにカゴに入れた

喜んで、くれるといいけど。

・

そのあと、おにぎりやお菓子を適当にレジに持っていって会計を済ませる

「ありがとうございました」

レシートとレジ袋を受け取ってお店を出ると、ふと袋の重さに気がついた

差し入れ、って言ったのに、

自分の分まで買っちゃってる。

本当は最初から、一緒に夜ご飯を食べたかったのかな、なんて。

本当の気持ちは、もう、

私にも、わからないよ。

冬の寒さにマフラーをぎゅっと巻き直して、

私は駅へと急いだ

・

数十分電車に乗っていると、スタジオのある駅に着く

全然知らない街

きょろきょろと周りを見回してから、駅の前のロータリーでケータイの地図を開いた

なんとなく、神宮寺くんにまた会える。そのことが、

素直に、嬉しかった。

久しぶりに会ったあの成人の日、

あの日以来、君との距離をうまく守ってきたつもりだった。

だけど、それは多分私の勘違いで、

とっくに、あの瞬間から、

私は君と、居たかったのかも、しれない

ぴったりとマフラーに顔をうずめながら、

君のいるスタジオに向かって歩き出す

会ったら、どんな顔をするんだろう。とか、

もしかしたら、また君のギターが聴けるのかな。とか

いろいろな考えが浮かんで、変に緊張してきた

曲がり角を曲がると、突然現れた小さなスタジオ

「………ここだ、」

建物の名前を確認して、そっと中に入る

薄暗い廊下を進んで、部屋のドアの前にたどり着いた

すると中から聴こえてきた、懐かしい、ギターの旋律

ドアの小窓から中をのぞくと、

「…………っ、」

まるで初めて音楽室で君を見かけた時のように、

真剣に楽器と向き合う、

神宮寺くんの横顔が見えた

そしてその横顔は相変わらず、

とても、綺麗だったんだ。