壱 ページ2
「七海!新入生の子に会いに行かない?」
同期の灰原がそう言った。
なんでも、今年は新入生が二人きりらしい。
うちの学校は入学生が毎年少ない、特殊な学校ということもあり入学式もないので顔合わせは各々、という事になっている。
一年生の教室は今自分たちの立っている廊下のすぐ突き当たり。
断る理由もなく、了承すると、灰原は子供みたいに喜んだ。
そして、注意する暇もないくらい早く、廊下を全力で走っていく。
ノックもせず、一年生の教室のドアをいきなり全力で開けた。
「初めまして!二年の灰原です!」
元気よく挨拶をするが、いきなり空いたドアに手前に座っていた気弱そうな男子生徒は縮み上がってしまったらしい。
奥を見ると、窓際の机に突っ伏しているのはポニーテールの女子。
安っぽい金髪と銀のピアスが太陽の光を浴びてキラキラと輝く。
その女子生徒が灰原の大声で起きてしまったのかごそごそと動くと手前の彼はまた少し肩をふるわせた。
確かに、気の弱そうな彼からしたら、この女子生徒は相当怖いだろう。
自分の金髪とは違う明らかに染めた後の色。
偏見ではあるかもしれないが、髪を染める、ピアスを開ける=不良、という固定概念は誰にでもあるものだと思う。
ムクリと起き上がった彼女がゆっくり目を開けた。
まだ眠いのか、瞬きを繰り返すと、目を擦りながら顔を上げた。
ううん、と唸り、目をこすってぼんやりとした顔のままちらっと此方を見やる。
想像していたより幼いその顔、淡い水色の瞳。
ぱちり、と大きな目がもっと見開かれた。
「………す、すきです」
「は?」
「………めちゃくちゃ、好きです」
今度はこちらの目が見開かれる番だった。
ピアスの穴が何個も空いた耳が赤く染まっている。
頬に手を当てて惚けたような顔でこちらを見つめる彼女は、そうだ、寝ぼけているに違いない。
「あの、おなまえ、おしえてください」
「……七海建人です」
七海先輩、と噛み締めるように呟いた彼女が、嬉しそうに笑った。
灰原が君の名前は?と聞くと、右上をちらりと見た後、虎崎流歌です、と答えた。
「流歌、ね!覚えた!」
そう言って手を握り、ぶんぶんと上下に振った彼の方は、人当たりがよく、明るい。
対する自分は人と接することが得意なわけでもなく、よく目付きも悪いと言われる。
寝ぼけていたといえ、相当変わった趣味だ。
でも明日になればきっと忘れている、とそう思っていた。
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作者名:翠-すい- | 作成日時:2021年1月31日 21時