06 / 理由なき心 ページ6
side S
「ねぇ、ほんとに行きたかった？」
「ふふっ、ほんとだって。俺がトイレ行かない人間だとでも思ってんの？笑」
「違うけどさぁ、気遣ってくれたのかと思って」
「ほんとに俺も行きたかったのよ。ほら、しょーもないこと言ってないで早くやんなさい」
「……そんな急かされると出なくなる」
「なんなの、笑」
申し訳なさでしょげてんのかと思えば
ふふ、と笑ってる。
いつものこと。
でも、別に連れションってわけじゃない。
いや、状況的にはそうなんだけど。
彼が怖いのは、トイレに行くことでも
ひとりで入ることとかでもない。
「おまたせしました」
「ん、待ってねー、」
先に洗面台で手を洗い終えていると
後ろから終えてやってきた彼。
彼の掛け声で、水を出す。
そこに手を差し出し、お湯になるまで待つ。
彼が怖いのは、水。
「ん、お湯になったよ」
「ありがと、」
「…ごめんねって言いたそうな顔で見ない」
「だって、」
お湯で手を洗いながら、振り返って謝りたそうな顔。
もう何十年とこれなのに、未だに申し訳なさそう。
いや、何十年とこれだからなのかな。
「なんでかなぁ、」
「理由？」
「うん、」
そして不思議なのは、
水が怖い理由が彼にもわからないこと。
心当たりがないらしく、気づけば、という感じらしい。
「わかんないんだよねー…、」
「…まぁ、すべてに理由があるわけじゃないからね」
うん、と頷くけれど
納得はいっていない様子。
そりゃそうだ、怖さの理由がわからないなんて、もやもやするに決まってる。
でも俺らも、彼がわからない限り下手なことは言えない。
俺らに出来るのは、こうやって手助けをするくらい。
「マジでずっと着いてきてもらわなきゃいけないかもしれないよね」
「いいじゃん、着いてきてやる」
「どうすんの、おじいちゃんになっても着いてきてって言ったら」
「おじいちゃんになったらむしろお互いに着いてかなきゃでしょ」
「ふふっ、どっかで死んでるかもって？」
「そう、笑」
水を避ければ怖くないらしいから、別に支障があるわけじゃない。
俺らも面倒とは感じないし。
ひとつ問題点を挙げるとしたら、
彼の申し訳なさそうな顔だな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 231人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヲ伽 -otogi-(プロフ) - ゆえんさん» わぁぁわたしこそコメント嬉しいです、、！🥲🩷ありがとうございます✨✨ (7月6日 23時) (
レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆえん(プロフ) - ひゃーーー新作嬉しいです😭😭😭😭😭😭更新楽しみに待ってます😭😭😭😭😭 (7月6日 16時) (レス) @page8 id: d25217e7b3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年7月6日 16時
