31 / 物語は今、 ページ32
side N
「暑くないね、」
ベンチの真ん中、俺らに挟まれて座る彼が
沈黙を埋めるでもなく、ただ感じたようにそう零す。
5月の雨は蒸し暑いはずで、
でもそれがない。
いや、まず、雨が降ってないんだけれど。
でも、さっきまで少し蒸し暑かったそれが、全くない。
「うん、全然」
「景色的に夏っぽいのに、暑くない」
「うん、……心地いい」
俺が同調して、翔ちゃんが感想を加える。
それに深く頷いて、ベンチの背に身体を預ける彼は
さっきまでの恐々とした表情が少しだけ、残っているけれど
和らいでいる。
「……ここは、季節とかがないのかなぁ」
同じようにベンチの背に身体を預けるリーダーが
ふと、そう漏らす。
「時間、とかもないのかも」
それに無意識のようにそう返す相葉くん。
2人の言葉がスッと入ってきて、
無意識に確認するように景色を見てしまった自分に
ふと、この異世界を信じ込んでいることに気づく。
ちらり、隣の翔ちゃんと目が合う。
本当は、信じていなかった。
バス停が無かったら、この不思議な体験を不思議なことで解決しようとする潤くんの思考回路も変わるだろう、ってそう思ってた。
心の底ではバス停の存在なんて信じていなくて、でも彼には言えなかった。
いや、たぶん彼は気づいていた。
俺らが、本当は信じていないこと。
彼は俺らが信じていないことを利用したし
俺らは、彼に気づかれていることを利用した。
それがすべてひっくり返った。
「………ふふ、竜宮城みたい」
ふ、と
真ん中の彼が、視線を下に落とすように俯いて笑う。
普通に、いつもどおり、可笑しそうに。
「ふふ、どうする戻って時間めちゃくちゃ経ってたら」
「車に玉手箱あったりして」
「んふふ、開けるならみんなで覗き込もうね、ひとりだけ歳取るのやだから」
「なんで開けちゃうのよ、浦島太郎と同じことしてどうすんの、」
「ふふ、…この竜宮城は、どんなところだろう」
信じてしまった。
確信があったけれど、実在するかどうかは疑っていた彼も
すべてを疑っていた俺らも
今、彼の不思議な体験が本当に起こっていることだと
今居る此処は、本当にある場所だと。
物語を、自分達の手で始めてしまった。
それに、後悔は無かった。
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ヲ伽 -otogi-(プロフ) - ゆえんさん» わぁぁわたしこそコメント嬉しいです、、！🥲🩷ありがとうございます✨✨ (7月6日 23時) (
レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆえん(プロフ) - ひゃーーー新作嬉しいです😭😭😭😭😭😭更新楽しみに待ってます😭😭😭😭😭 (7月6日 16時) (レス) @page8 id: d25217e7b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年7月6日 16時
