105 / 汗を隠す愛 ページ9
side A
「待っててね、ココア入れてくる」
「……ん、……その、あと、」
「うん、その後行くよ」
なるべく時間を掛けて服を選んで、着替えて
リビングに戻り、ココアの準備。
この時にいつも、どうしてもまた落ち着きがなくなる。
今も彼がソワソワし始める。
でもその時、玄関の鍵が開く音がした。
少し早歩きの足音が近づいてきたかと思えば
静かにリビングの扉を開けて入ってきたのはニノ。
潤のことはいつも誰かが報告するから、それを聞いてやって来たんだろう。
仕事まで、少し時間があるんだろうな。
目が合った彼に、
気づいていない潤を落ち着けてあげてほしいとアイコンタクトでお願いする。
「潤くん、」
「ぇ、あ……にの、」
「うん。仕事までちょっと時間あるから来た。今日は見えてる？」
「ん、今日……は、見えてる…」
また手が喉に触れそうになった手前でニノが話しかけてくれて
その手を自然と握って、止める。
「服、今日はそれに決めたの？」
「あ……うん、今日、寒いって……相葉くんが、」
「うん、今日ちょっと寒かった。俺ももうちょい着込んでくれば良かったなと思ってるの、ふふ」
「………ニノ、寒いの…？………服、貸せる、」
「ほんと？借りようかな、選んでくれる？」
「ぁ、うん、」
手を止められて、会話で意識を逸らされた彼は
舌足らずになっていた俺らの名前も元通りになって、寒いと言うニノへの気遣いまでして。
さっき服を選んだ部屋まで、ニノと歩いて行った。
精神的に落ちてる彼にとっては寒いだけ。
今日は、俺らにとっては着込むほど寒くない。
首の後ろに汗までかいてるくせに。
とにかく時間を掛けられるようにさせてあげたいのは、みんな同じなんだ。
生きるためにと必死に縋っただけで、彼は悪くない。
生きるためにと必死だった彼を、何とか救ってやりたい。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
