141 / 貴方の傍に、 ページ46
side O
何かあったら起こすんだよ、と
彼が遠慮してしまわないように伝えて、布団に入った。
ふと、寒さに目が覚めて身体を起こすと
隣のベッドはもぬけの殻。
嫌な予感が脳裏を過ぎり
慌てて部屋を出ると、煌々と明るくなっている廊下。
玄関前、
背中を丸めて、体育座りのように腰を下ろす彼の姿。
「潤、」
傍にしゃがんで声をかければ
後ろからは見えなかった、靴を履いた足元。
ギリギリだ。
「……りぃだ、」
「準備万端じゃんか」
「………行っちゃだめ、」
「ん、そう思えてるのは偉いよ」
褒められてむず痒いのか、
体育座りで近くにあった膝に、顔を埋める。
「………えらくないよ、………リーダーに付き合わせて、……こんな僕えらくない、」
「ふふ、相変わらずネガティブだなぁ」
「………だって、嫌でしょ、……メンバーが、こんなのとか、…こんな、つまんない話しか出来ないとか、」
「なんで。これもコミュニケーションだよ。俺は潤と話したいよ」
「………こんな僕、……嫌じゃん」
「俺はその潤も好きだよ」
「………りーだ、……めんどくさいって、言っていいんだよ、」
「俺がおまえにそういうとこ気遣うと思うー？ほんとにめんどくさかったら言ってるよ」
何か引っかかっていたものがあったのか、話をちゃんと聞けていなかったのかとか
いろいろ考えていたんだけど、どうやら違うらしい。
たぶん、俺に付き合わせてしまったことがぐるぐると脳内から消えなかったんだろう。
それが、クリニックの衝動に繋がっちゃったんだろうな。
「………ごめんね、こんな僕に、付き合わせて、」
「……………おまえはよく頑張ってるんだから、好きで傍に居る奴に甘えていいんだよ」
頼れなかったかな、と思っていたけれど
その言葉に少し身体を預けてくれるから、たぶんそうじゃない。
声をかけなきゃ、とは思ってたんだと思う。
もう少し頑張ってみようとか、まだ大丈夫とか
そんな思いが、声を掛けるのを引き延ばさせただけ。
クリニック前まで行く？と
その質問には首を横に振って。
その代わりに、もう1回だけ言って、と
言葉を要求された。
まだまだ、衝動には勝てないときが多いけれど。
言葉や態度が、それに勝てるときが来たらいいね。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
