136 / 彼と彼らの合言葉 ページ41
side S
全部吐き出していいよ、って
優しく微笑んでそう促すニノに誘われるがまま、
決壊したように涙を零し始めた彼。
それでも、声はあまり漏れなかった。
泣くときに声を押し殺すのが癖なんだろう。
ずっと、ずっと泣いて
ひたすら泣いて。
その間に、ゆっくりニノが詳細を話してくれた。
肩の上下もおさまってきた頃、智くんが最後に、と言いたげに話を切り出す。
「潤？」
まだ目が真っ赤な彼は、顔を上げにくいようで。
でも智くんが、髪を梳いて目を見てほしいと促す。
大切な話なんだと察した潤は、
まだ乾かない真っ赤な目で、ちゃんと智くんを捉える。
「どんな言葉なら言いやすい？」
「…え、」
「”助けて“ の代わりの言葉を作ろう」
ニノからの詳細を聞いて、
彼が何度も何度も話を聞いてもらったり、
助けを何度も呼ぶのが苦手だとより一層感じた。
それは智くんも同じだったようで、
彼がそれを少しでも出来るようにと、新たな工夫を提案する。
「かわり…？」
「うん。話し終わったとお互いが思ったあとに、やっぱりまだ遺ってるときとかもあると思う。そのときってたぶん言い難いと思う。落ち着いたあとに、やっぱりまだ不安だからもうちょっと助けて、とかもね」
「……ん、」
「だからね、それなら ”助けて“ とかの代わりの言葉を作ろう。俺らと潤の間だけでわかる言葉。それなら周りの人に、潤が助けを求めたってわからないよ」
「………かわり…、なんだろ…」
「何がいい？好きな言葉とか、物とかでもいいよ」
素直に受け取って、素直に考え始める。
代わりの言葉か。
確かに、”助けて”、って言葉にしにくいもんな。
「ん？何か浮かんだ？」
考え込んでいた彼が
ふと、俺らの顔を見る。
それで何か浮かんだと察した智くんが尋ねると、
小さく開いた口から零れたもの。
「…………心、…貸して、」
彼らしいと思った。
彼の悩みと、傷と、
悲しさと、悔しさと、
望みと。
そんな、いろんなものが詰まっていて、彼らしいと。
「うん、ふふ、いいね」
「………いい、？」
「うん。それを俺らの合言葉にしよう」
まるで、
幼い頃に秘密基地を見つけたときのような。
温かくてホッとして、でも新しくて。
そんな、嬉しい感覚を覚えた。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
