131 / 目に見えない心の、目に見える理由 ページ35
side N
「ん、入る？心配だから俺も着いてくことになるけど、それでもいい？」
言ったことは守る。
宥めるための嘘にはしない。
今入ってしまったとしても、
この数ヶ月が水の泡になるわけじゃない。
彼が今消したいのは、
頭の中でずっと巡ってしまう一昨日のこと。
そしてその波を掻き立てているのは、時の流れに逆らうように、いろんな時期のことが巡ってしまうから。
だから、どうしてもなら入ることは厭わない。
俺が一緒に入って傍に居ることだけは譲れないけれど。
でも。
ぎゅ、と握られた手には、理性がある。
「…………はいっちゃ、だめ…っ、」
だって、彼も本能ではわかってるんだ。
此処は良くないということ。
「うん」
「っど、どうして…っ、僕、だめって…っわかってる、なのに…っ、入りたいって、入ろうって…しちゃった…っ」
だからこそ、大きな後悔に呑まれる。
やめようとしてるのに、やめなきゃとわかってるのに
また入りたいと思ってしまった。入ろうとしてしまった。
この悪循環で、1人では断ち切れなかったんだろう。
でも潤くん、今は俺らが居るんだよ。
「潤くん、足見てごらん、足」
「っな、なんで…っ、はいるの、やめなきゃ…っ」
「じゅーんくん、こっち。俺の話聞いて？」
「……に、の、」
「うん、ほら、足。見てごらん」
「……あ、し…」
「うん。玄関に繋がる階段に、潤くんの足、一歩しか乗ってない」
これが証拠。
この数ヶ月の、彼の努力の証拠。
「ね。潤くん入るの止められたんだよ。入りたい、消したいってたくさん思ってたのに、潤くん入らなかったの。足、ここで止められたの」
「…………あし…」
「潤くんちゃんと前進んでるんだよ。俺が居なかったのに、潤くん入らなかったんだもん」
俺のことも見えているのかいないのか、そんなものだった瞳が
ゆらゆら揺れて、戻ってくる。
彼の、戻ってくる場所になれたんだな。
「助け、待っててくれてありがとうね。助け、待たせちゃってごめんね」
頼れなかったわけじゃない、って
そう思ってほしかった。
自分で自分をコントロールして、
助けを待っていた。
例え無理やりだとしても、それを事実にしたかった。
やっと流れた、色のある涙に
心底ホッとした。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
