130 / 隙間風 ページ34
side N
「潤くん、俺。分かる？見えてる？」
「…っ、に…の、」
「うん。怪我は？何もない？」
「けが…？……な、にも、」
「そう…、よかった、焦った…っ」
目の前で、何故怪我なのか、という顔をする彼に心底安心して
つい抱きしめる。
ただ此処だけを目指して車を走らせたんだろう。
もう少し話を聞いたほうがよかったな。
少し足りなかった。
だからコントロール出来なくて、いつもならギリギリ出来る俺らに頼ることも出来なかったんだ。
油断したな。
もっとちゃんと見ておくべきだった。
手遅れにならなくて、本当によかった。
「………それ…だけ…？」
「ん、？」
「ひとりで…きちゃったのに、……入りそうに、なったのに…、おこんないの…、？」
「怒んないよ…、怒んないんだよ、それは悪いことじゃないんだよ」
どうして、なんて顔をして
未だカタカタ震えながら尋ねるから。
来てしまったこと、入りそうになってしまったこと。
誰も、怒らないんだよ。
目の前の瞳から、ひとつ、ふたつ、溢れ始める。
「………っ、入りたい…っ、消したいの…っ」
「うん、入りたいね。じゃあまず、一旦落ち着こう。入るにもまず落ち着かなきゃ、ね」
クリニックが目の前にあろうがなかろうが、やることは同じ。
まず時間を掛ける。
思考回路を支配されてしまっているから、
まずはそれを取り戻す。
でもそれを言えば、”入っちゃダメ” って言ってるのと同じだから。
”入るために、一旦落ち着く”
”入るためには落ち着く必要がある”
そう伝えるのが、俺らがいつも意識してること。
「そう、深呼吸ね」
「は、はいる…っの、もう…っ」
「うん、入るんだよね。大丈夫、入るからまず深呼吸ね。挨拶もあるんでしょ？落ち着いてから入らなきゃ」
彼の話では至って普通の病院に見えるらしいから
おそらく入ったところでは普通の雰囲気なんだろうと思って、想像で話して宥める。
だいたい合っていたのか、
彼は納得したように深呼吸に集中していて。
なるべく近い距離で離れないように
一緒に深呼吸して、彼が落ち着くのを待つ。
「うん、ちょっと呼吸整ったね」
数十分経ってやっと整った呼吸。
それに頷くけれど
まだカタカタ震える手で、ぎゅ、と服を握られる。
131 / 目に見えない心の、目に見える理由→←129 / 隙間風
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 284人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
