101 / 後悔の種 ページ4
side M
「いや、だめ……だめ、やめる、やめるんだって…っ」
落ち着かなきゃ。
慌てない。慌てるからいつも、コントロール出来なくなる。
スマホをどこに置いたか、それをまず思い出さないと。
「クリニックじゃなくて、スマホ……スマホ、」
自分の意識を逸らそうと必死に脳を動かして
眠る前の自分の行動を振り返る。
いつもなら、作業机に携帯を置いて寝る。
でも、すぐに連絡出来るようにしないと怖かった。
だから確か、枕の。
「ぁ、まくら…の、下、」
手探りで枕の下に手を入れると、少し冷えたスマホ。
ひどく安堵した。
「えっと、連絡…、……音声、」
見えない今、スマホを触る方法は音声アシストしかなくて
慣れなくて恥ずかしいのに、「Hey,」なんて声で起動させる。
電話は勇気がいるから連絡するならLINEにしよう、とか寝る前は思ってたのに
音声で文字を入れる方法まで頭が回らなくて、LINEは断念。
「リーダーに、電話をかけて、」
ちゃんと声を拾って電話をかけてくれた。
出てくれるかな、と不安だったそれは
たった1回しか鳴らなかったコール音で、解消した。
「はぁい、どした潤、」
耳元から聴こえる、あまりに優しいその声に
少し、少しだけ、泣きそうになる。
「………っぁ、あの…っ」
「どうしたどうした、なんでそんな涙声なの、」
泣きそうに、なんて思ったのに
振り絞った声はあまりに震えていた。
次から次に起きる自分の異変に
処理出来ないくらいの不安が生まれる。
どうしよう、
僕が、あんなとこ行かなければ。
「潤っ？」
耳元と同時に、すぐ傍から聴こえてきたそれがとても安心して
声のほうを振り向くけれど、姿は見えない。
それで察したのか、
耳元で、ツー、ツー、と電話の切れた音がする。
「潤、見えない？」
「っみ、みえな…くて、起きたら…っ」
「……ん、わかった。大丈夫、怖かったね」
4人の気配を近くに感じていたら、
そっと、リーダーの香りに包まれる。
いつかと同じだ。
いつかも、こうやって抱きしめてくれたのに。
あのときに頼っていれば、あんなところ通わなくて済んだかもしれない。
でもあのときは、頼り方がわからなかった。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
