116 / 丁寧さが仇となる ページ20
side S
「潤、一旦落ち着いて。深呼吸しよう」
心が揺れ始める彼を一度抱きしめる。
相手を傷つけたかもしれない、って思い込んで、
今日どんな反応されるか怖くて。
自分も傷ついてはいるのに、それは後回し。
でも、嫌だった、と自覚出来ていることは良い進捗だ。
「ちょっと嫌だったんだね、」
「ん……ちょっと、キツ…く、思って、」
「うん、相手の言い方がちょっとキツかった？」
「たぶん……向こうは、普通なんだけど、僕…は、」
「うん、潤にとってはキツいものだったね」
「だから、……優しく言わなくても、いいって、…ちょっと、思って、」
自分が傷ついた相手でもちゃんと庇って、
優しく出来なかったと自分の非まで言えるのに
自分にはなかなか優しく出来ないね。
でも少しずつ、少しずつ
心の中で起こったことを話そうとしてるのは気づいてる。
「うん、優しく出来ないときもあるね」
「……優しくされなきゃ、嫌なくせに、」
「でも潤は、そうだからいつも人に優しくしようと努めてるんでしょ？」
「………でも…、優しく、しなかった、」
「嫌な言い方って感じたら、そりゃ優しくしたくなくなるよ」
「でも、でも…それ、僕が勝手に傷ついたんだよ、」
「うん。でもそれは、大事な潤の感情だよ」
抱きしめたまま話していたけれど
その言葉で顔を上げる。
そこには、相葉くんから言われた言葉が映っている。
「傷ついたっていうのは、大事な潤の感情。
だから、優しくしたくないっていうのも、大事な潤の感情。それは価値があるものだよ」
「……優しく、されたかったら、…優しく、しなきゃ、」
「うん、それはいい心がけだと思う。潤がそう心がけてるのは俺らもわかってる。
でもね、だからって自分の心に嘘つく必要はないよ」
「……、」
「ね。矛盾があったっていいよって、智くんも言ってたじゃない」
うん、と頷く彼には
認めてもらえた言葉はちゃんと遺ってるのがわかる。
彼の中で遺っている数が、
否定されたと彼が感じた言葉より、
認めてもらえたと感じた言葉のほうが、いつか逆転してくれたらいいな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 284人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
