109 / 傷の定義 ページ13
side A
「傷つけられるのはダメ。潤は傷つけられていい人間じゃないよ。
でも、自分が傷ついたことまでダメだと思わなくていいの」
「……みんな、……平気に、見える、…僕、だけ…何も、出来なくて、」
「俺らからはそう見えてないよ。もし潤が言う通りだとしても、潤は自分の感情を認めてもいいの。潤の感情には、価値があるんだよ」
彼の中での自分の価値が、あまりにも低いんだと思う。
どうしてそこまで劣等感が強いのか、それはわからないけれど。
”みんなは平気に見える”、の部分は触れることが出来なかった。
”平気に見えてるだけでみんな平気じゃないんだよ”、なんて、彼が言う ”苦しい正論” と同じだと思ったから。
でも、流すことは出来ない。
「きっとね、潤も周りからは平気に見えてる。誰しも周りからはそう見えるんだと思う。
でもね、みんなきっと、傷ついたことを認めることが出来る経験をしてるから、対処の仕方を知ってるんだと思う」
「……僕…は、」
「うん。潤も同じだよ。潤も傷ついていいんだよ。潤はこれから、その経験をするの」
貴方にはその経験が必要だよ、なんて言えば
貴方にはそれが足りないよ、と伝わってしまいそうで。
彼がこうなって、俺らも言葉の力の重大さを知った。
簡単に利用出来るからこそ、相手に同じように伝わるとは限らない。
大勢の人に同じように伝わるとしても、違うように理解する少数の人が居る。
多数派しか見えない世界なのは、言葉でも同じだ。
「認めていいものだから、認めてごらん。それで、それを俺らに共有してごらん」
「……、」
「それを笑ったり判断したりしないことは、ちゃんと約束する」
たぶん、わざわざ約束することじゃないんだと思う。
でも彼には、保障が必要。
ずっと難しい顔をしていた彼の表情が歪んで
頬が濡れていく。
「潤が持つ感情に、ダメなものなんてないよ」
もう少し、言葉をかけていればよかった。
俺らがずっと思っていたことなのに、それを言葉にしなかった。
簡単に利用出来るのに、どうして簡単に手に持って渡せなかったのか。
後悔を二度もしないように、今度こそ。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
