143 / 彼が在る理由 ページ8
side A
「俺はあの日、死ぬつもりであそこへ行った。
でもおまえと違うのは
駆け上がった勢いで、そのまま死ぬつもりだった」
あの日、おまえに声をかけたとき
俺の息が上がっていたこと、
必死だったおまえは気付いてなかったんでしょう。
おまえが居たから俺は、
あのとき死なずに、今此処に居る。
「………潤、」
揺れる瞳が
名前を呼ぶと、徐々に濡れていく。
彼の頬に手を滑らすと
手に、涙が伝った。
「俺がおまえを救ったんじゃない。
おまえが、俺を救ったんだよ」
ゆっくり距離を詰めて
そっと抱きしめられる。
震える彼を包み込むと
痛いくらいに強く抱きしめられた。
「おまえに懸けてみようと思った。
こんなに綺麗なのに誰も信じてないようなおまえに懸けてみようって。
”効果がなくなったら死んでもいい”って言ったのは
俺がおまえに生かされたから、
おまえが死ぬときは、傍に居ようと思ったんだよ」
理由もなく、彼を支えてきたわけじゃない。
いや、彼を支えてなんてない。
「ただ、おまえの傍に居たかったの。
出会ったときから、どんな人間よりも綺麗だと思ってた」
彼になら捧げられると思った。
彼に捧げる人生なら幸せだと、確信があった。
「俺はおまえに救われた。
おまえが俺を救ったから今があるの。
誰が何を言っても、おまえは汚くなんかないよ。
おまえがどんな道を選んでも、俺は絶対、最期まで傍に居る」
肩に、涙が滲んでいく感覚。
あの日、
初めて俺の手を取ったときも
彼の瞳が濡れていたことを思い出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 606人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヲ伽 -otogi-(プロフ) - 櫻宮さん» そうですね、曖昧な終え方をするお話はありましたが、腑に落ちない終え方をしたのは初めてです💭どこで間違ったのか、どうしたらよかったのかこの後どうなるのか。すべて5人の中だけにあるお話でした。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました！ (2022年2月28日 1時) (
レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮 - 誰かに寄りかかって支えられて支えて生きなければならない。ステキなお話でした。ありがとうございます！ (2022年2月27日 18時) (レス) id: 59853f2783 (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮 - 完結おめでとうございます！ヲ伽-otogi-さんのお話の中で一番腑に落ちない作品でした。誰が正解で誰が間違いで何が正解で何が間違いかなんてそんなの分からない。誰を、何を信じればいいのかも。でも人は、人間は一人では生きられない。 (2022年2月27日 18時) (レス) @page16 id: 59853f2783 (このIDを非表示/違反報告)
ヲ伽 -otogi-(プロフ) - ちぇろさん» このお話はそれぞれの想いすべてに正解がないお話のためそれぞれに感情移入して下さるのはとてもうれしいです☺️読み返す度に新しい発見があればうれしいです✨最後までお付き合いいただきありがとうございました☺️ (2022年2月27日 14時) (レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇろ(プロフ) - 完結おめでとうございます。いろんなことを考え、それぞれを想い、それぞれに感情移入し、読ませていただきました。何度も読み返してはいろいろ考えて…。素敵なお話を本当にありがとうございました。何度も読み返したいお話です。 (2022年2月26日 19時) (レス) @page16 id: 84d56b057b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヲ伽
| 作成日時：2022年2月18日 17時
