木漏れ日より、愛を込めて -20-

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side N




雅紀「…………ニノ、家着いた」




ずっと窓の外を見ていれば

隣から、そっと声をかけられる。




それに対する返事は返せなくて

脳内にあるものが、小さく零れた。




「……………………人と、違うって……わかってた、」

雅紀「……うん、」

「……………聞いた……ときから、…ずっと、」

雅紀「うん、」

「でも……あの子が…知らない、ことも、……知らない、幸せも……多すぎて、」

雅紀「……ん、」

「ひとりになれば、すぐ……俺に、母親を重ねて…、」

雅紀「うん…、」

「やけに……自分の価値、低く……」




誰かと食事をすることも

誰かとゆっくりお風呂に入ることも

誰かと寝ることも

あの子は何も知らなかった。




初めて話してくれた日、

部屋の隅でカタカタ震えて

俺を見る怯えた目には、母親が居た。




あの子は現実には居なかった。

自分が現実に居ることを、ひどく拒んでいた。




まだ俺が

彼の堆積物を知らなかった時。

ただただ、

生きてほしいとだけ願っていた時。




席の背に凭れていた体をゆっくり起こし

震えた手が、自然と顔を覆う。




「……………………っ、俺……あの子に、…っ、」

雅紀「………ニノ、」

「……………あの子に、すぐ…っ、生き死にのこと……っ、」




怖さや痛さ、不安。

俺に話してくれたとき、あの子の中に大量にあったそれらよりも

何よりも生き死にのことを話した。気にかけた。




あの子の中の堆積物が6年間なら

それは、生死と同じくらい傷が深い。









生死を優先したことは間違ってないと

ずっとそう思ってきた。




2年を軽く見てたわけじゃないけれど

6年だなんて、あの子にとっては生死を彷徨ったに変わりないんだ。









順位を付けていいものではなかったのに。









「……………っ、いっぱい、がんばったって…、
………ずっと、愛してほしかったって……っ、
包丁も…っ、狭い所も暗い所もっ、大きな音もひとりも…っ、

…………………………6年は、…………長すぎる……っ、」




包丁への怖さも、
狭い所や暗い所への怖さも
大きな音や声への怖さも
ひとりに対する怖さも

すべて、6年かけて与えられたもので
6年間、耐え続けたもので




これを耐えれば、って

叶わない希望を持ち続けた、6年間で。




” 6年 ”は、

あまりにも長い。

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