乞ウモリ (ページ40)

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beg.39 / 存在－A ページ40

「……もう、ひとり…」

そう呟いた俺から

一瞬足りとも目を逸らさず

表情一つさえも変えず

一粒一粒涙を流しながら

もう一つの心臓から、手を離さなかった。

“ 違う ”

“ 全部、俺じゃない ”

彼のその言葉と

あの深夜の彼との会話が

脳内でループされる。

嗚呼、そうか。

俺が抱いた違和感を消そうとするなら

あれが松潤じゃない、という決定打を出すしか

術が無いんだ。

嘘みたいなことを信じるしか

術は無い。

「昔から…ずっと。

周りの記憶と、自分の記憶が

重ならなかった……」

“ 事実は小説よりも奇なり ” ────────

昔、おばあちゃんから聞いたこの諺(ことわざ)が

ふと、頭に過った。

「……ふは、ごめんね？

ほんと、意味わかん───────」

“ ハッ ” と

耳元で、彼の声が漏れた。

一瞬、彼の息が止まるんじゃないかと思う程

俺がキツく抱き締めた反動の声。

何を言えばいいかとか

どう励ませばいいかとか

そんなの、分かんなくて

俺はきっと、持ち合わせてないけど

彼の哀しい自虐を止めることくらい、

俺にだって出来るから。

「……松潤は、大丈夫」

「…こんな奴…、意味…っ」

「意味分かんなくない。分かんなくないよ。
俺には、ちゃんと分かるよ。

松潤の存在は、ちゃんと知ってる」

儚くて消えそうな。

雲に隠れる月みたいに、何かに攫われそうな。

そんな彼を、

何処にも行かせたくない、なんて思って

彼を抱き締める腕力を、更に強くする。

「……此処に居て。…頼むから」

「……ぃば、くん」

「変な手紙があるなら、破るから。

手首に傷があれば、隠すから。

2人居るなら、松潤だけを見るから。

……だから、此処に居て」

何を願おうかと

無意識の中で探したけれど

結局見つかったのは

彼の存在。