乞ウモリ (ページ33)

今日:2 hit、昨日:42 hit、合計:93,440 hit

beg.32 / 夜が惹き寄せたもの－N ページ33

細い路地に、

自分の声が響き渡る。

それが、彼の耳へと伝う。

「……っごめん」

肩を震わせて、

それしか呟かない彼を見て

少し言いすぎたかな、と罪悪感が沸いてくる。

「…ごめん、責めちゃったね。

…ねぇ。なんでここを選んだの？」

怒ってない、と伝わるように

優しい声で尋ねながら、彼との距離を縮める。

後退りしないから、きっと伝わったんだろう。

「……話してくれる？」

俯いた彼の顔を覗き込みそう言うと

躊躇いが彼の表情全てを占めていた。

少し待ってよう、と思って

彼から離れてビルに凭れると

俺が離れたことで、張っていた気が緩んだのか

彼がずっと手に持っていたモノが落ちた。

「あ、潤くん落ちたよ」

俺の近くに落ちたから、

拾うためにしゃがみながら、

彼にそう声をかける。

「…っ！ダメッ───────…！！」

急に上から降ってきた大声を聞いた時には

俺の目は、目の前の落し物へと向けられていて。

何だこれ、という好奇心から

彼の声に振り向くことは無かった。

「……レントゲン？？」

「ダメッ、返して…っ！！」

「……まって」

異常に焦って慌てる彼が

俺の手からレントゲン写真を奪おうと手にかけたとき

それの違和感に気付いた。

グッ、と手に力を入れ

彼に奪われないように守る。

体内に渦巻く、

違和感という名の恐怖の答え合わせをしようと

顔を上げて彼の顔を見ると

さっきまで躊躇いだった表情は、

絶望へと変わっていた。

「………これ、…って」

レントゲン写真に視線を戻すと

そこに映る違和感。

.

体の中心にあるはずの白い影が

左右それぞれに

2つ。

.

「……っか、え…してっ…」

彼の口から出た絶望は

彼の涙を誘い、

全身の力を奪って、

彼の体を地面へと叩き付けた。