木漏れ日より、愛を込めて -2- (ページ41)

今日:21 hit、昨日:99 hit、合計:298,405 hit

82 / My choices ページ41

side N

先生「それと…もうひとつ、いいですか？」

考え込んでしまっていると
先生が見計らうように口を開いた。

「あ、はい…」

先生「一番、言っておきたかったんです。
…潤の精神年齢は、きっと…なかなか上がらないと思います」

「…、どういう…？」

先生「幼い頃に心を痛めた子は、歳を重ねても精神年齢が追いつかないことが多いんです。

最も多い虐待を例にとると、どれだけ虐待されても
自分が悪い、自分の居場所はここしかないと、
自分を犠牲にして我慢するので、

虐待から救ったとしても、素の自分を出せなかった時期で精神年齢が止まってしまう。

その後、普通の生活をしていくことで徐々に精神年齢が上がっていくんです」

俺が理解出来ているかを確認するためか、
一度間をあけてくれた先生。

それに応えるように俺が大きく頷くと
続きを口にする。

先生「でも、潤はケースが違う。

子供の頃に虐待からは抜け出せましたが、
まだ精神年齢が追いついていないうちに自分を変えようと入ったジャニーズで、偽りの自分を造ってしまった。

それによって本当の自分を消してしまったから
本当の自分の精神年齢を上げるのが出来なかった。

ありのままの自分を犠牲にして、居場所を守ったのと引き換えに
彼は、自分を確立するモノを失った。

潤は、自分を偽っていた時期が長すぎたんです」

全てを包み隠さず話してくれる先生に
怖気付いてしまって、顔を上げていられなかった。

俯いた俺に、先生は何も言わなかった。

“ 遅すぎた ”

誰かに耳元で囁かれた気がした。

潤くんを救えるんだと、
潤くんを救えたんだと思っていたけれど

そんなの俺のエゴでしかなかった。

潤くんは、俺らを居場所だとしてくれたのに

俺らは何も気付かず、
潤くんは居場所を守るために、嵐を守るために
徐々に “自分” を消していった。

俺に全てを話してくれたときには、
潤くんの居場所は完璧に俺らであって

それと同時に、その時には既に
“自分” を失っていた。

復帰すれば、徐々に精神年齢は上がるものだと思ってた。

そんな簡単なものじゃないんだ。

俺らが遅すぎたから
俺らが潤くんに甘えすぎたから

精神年齢を上げるときを見失ったんだ。

先生「これから先、片時も潤に偽らせないことが大切です。
どうか…それをふまえて、ここを出た後のことをお考え下さい」

「…はい」

それしか言えなかった俺を
先生は、責めなかった。