第二十五話:橙の使用人 ページ28
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自室に戻るとチーノがドライヤーと櫛を構えながら満面の笑みで待っていた。
『……髪の手入れくらい自分で出来る』
「そんな事言わずに！さ、座って下さい」
『だから腕を引っ張るなと言っているだろう！』
鏡台の前に私を座らせると、チーノはドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かし始めた。
「熱くないですか〜？」
『あぁ、大丈夫だ。……にしても、チーノは本当に髪の手入れが上手いな。一体何処で覚えて来たんだ？』
そう問い掛けながら後ろを振り返ると、チーノの橙色の瞳と視線がかち合った。彼は瓶底メガネの奥にある橙を細く歪めて「内緒です」とだけ言った。
チーノは温風と冷風を器用に使い分けて髪を整えていく。時折、櫛を併用しながら毛先を整える。
髪が十分に乾いた所でドライヤーのスイッチが切られ、チーノは櫛で髪全体を整え始めた。櫛と時折チーノの指が深紅の髪を泳ぐ。
一定のリズムで梳かれるものだから、思わず眠気に誘われそうになる。
何度目かの誘いに堕ちかけた時、髪を梳く手が止まった。終わったのだろうか、と腰を浮かせた瞬間、肩を押さえられて立ち上がることは叶わなかった。
『……チーノ、どうした』
鏡越しに橙を見詰める。
「お嬢。先日、汗だくで帰って来ましたよね？」
先日、と言うのは魔性に遭遇した日のことだろう。やっぱり隠し通すことは叶わないか。
『あぁ、そうだが』
「何があったんですか」
『……それを聞いて何になる』
せめてもの悪足掻きとしてそう返すと、未だ肩に置かれたままの手に力が籠った。
「俺にも言えへん事なんか」
かつてないほど真剣な光が瓶底メガネの奥に宿る。
一つ息をして、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
『勘違いするなよ、決して暴漢に襲われたとかではない。ただ魔性に遭遇しただけだ。攻撃される事を想定して強化魔法を使ったんだが、結局何もされず無駄骨に終わった。それだけだ』
これで満足か、と後ろを振り向けば、不服そうに眉をひそめたチーノと目が合った。その表情は何だか機嫌を損ねた幼子に見えて思わず笑いが込上げた。
「何笑っとんねん」
『いや、拗ねた顔が子供のように見えてな』
「拗ねてへんわ」
あー心配して損した！と悲痛に叫ぶチーノを置いて部屋の扉に手を掛ける。
『チーノ』
「なんですか？」
『心配してくれて有難う』
それだけ言って、部屋をあとにした。
「なんやあれ……ほんまズルい人やわぁ……」
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鶴木(プロフ) - しおりんさん» ありがとうございます！ (2020年9月13日 13時) (
レス) id: 9ab679ed16 (このIDを非表示/違反報告)
しおりん(プロフ) - あ″ぁ好き！シナリオ面白いです(*´∇｀*)本当に！いい展開！ (2020年9月12日 23時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
鶴木(プロフ) - Tさんさん» ひゃー！ありがとうございます！！女王様主人公大好きなので動かすのが楽しいです……更新頑張ります！！ (2020年8月9日 18時) (レス) id: 9ab679ed16 (このIDを非表示/違反報告)
Tさん(プロフ) - 主人公の性格と世界線が凄い好きです…！ もう、好きです！(2回目)無理しない程に頑張って下さい！応援しております〜、 (2020年8月9日 14時) (レス) id: 0fb9fed1ca (このIDを非表示/違反報告)
鶴木(プロフ) - #よにん。＠変人系カップル＆シトラ教教組さん» ありがとうございます！頑張ります！ (2020年8月5日 16時) (レス) id: 9ab679ed16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鶴木 | 作成日時：2020年7月20日 22時
