. ページ46
涙をこぼしながら動くその手は、少したどたどしくて。
彼女の手が止まったとき、伝えてみた。
『〈手話、上達したね〉』
「〈...手話教室の先生に、全部、訳してもらったの〉」
春尾さんか。
そんな考えも吹き飛んでしまうほど、その涙は綺麗だった。
「〈...本当はね、Aのこと...鬱陶しいなって思ってた時期もあったの〉」
お互い様だね、なんて心の中で言ってみる。
「〈私の知らない何かを見つめるAが、怖かった。何聞いても教えてくれないAが、ちょっと不気味だった〉」
「〈でも、違ったんだね〉」
「〈私が、知ろうとしなかっただけ。理解することを、放棄してただけ。違和感に、気づかないふりしてただけ〉」
手が止まったとともに、涙は更に溢れ出す。
拭うこともせず、私は彼女を見つめた。
彼女の言葉を待った。
高校時代のようで、少し違う。
「〈ほんとは、わかってた〉」
「〈緑茶も飲めないくらい苦いもの駄目なのに、いっつもブラックコーヒー飲んでた。滅多に本を買うことはないけど、たまに買ってる時はいつも心臓の病気に関する本だった〉」
「〈親友でしょ、なんて言ったのに、何もわかろうとしなかったのは私だった〉」
「〈言いたかった。ずっと〉」
「〈ごめん、って〉」
ああ、そうか。
私は、謝ってほしかったんじゃない。
『〈紬ちゃん〉』
『〈ごめんね、大好きだったよ〉』
謝りたかったんだ。ずっと。
彼女は、もっと泣いた。
『〈私もね、ごめんねって言いたかった。それで、いいよって言って欲しかった〉』
『〈それだけだったの〉』
きっと私たちは、分かり合うのが遅すぎた。
貴女は「変わらないね」なんて言ったけど。
変わったものが、大きすぎた。
もう、貴女に声をかけてあげることもできない。
もう、電話もできない。
貴女にたった一言、ごめんねって言うのでさえ、
〈手話〉を挟まなきゃいけないんだよ。
「〈...それだけ、伝えたかった〉」
「〈友達に戻りたいなんて言わない。ただ、貴女に伝えたかっただけ〉」
綺麗な彼女の言葉は、手話さえも輝いて見えた。
太陽のような、貴女の言葉は。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1315人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
綺桜(プロフ) - 美桜さん» わあ！！！ありがとうございます！！！めちゃくちゃ嬉しいです...！！！がんばります！！！ (2023年4月4日 18時) (
レス) id: b46e876e49 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - silent要素もオリジナル要素もあってすごく惹き込まれます！どうか主人公が幸せになれますように…。更新楽しみにしています！ (2023年4月4日 0時) (レス) id: 5680939f49 (このIDを非表示/違反報告)
綺桜(プロフ) - 夢乃さん» めちゃくちゃ嬉しいです！！！！ありがとうございます(T_T) (2023年1月3日 12時) (レス) id: b46e876e49 (このIDを非表示/違反報告)
夢乃(プロフ) - silent関連の小説で一番好きです。これからも応援しています。 (2022年12月23日 23時) (レス) @page42 id: fed228a0da (このIDを非表示/違反報告)
綺桜(プロフ) - 和季さん» 和季様、コメントありがとうございます！すごく励みになります！この先も更新頑張っていくので、ぜひ主人公の行方を見守っていただければ！と思っております(●︎´▽︎`●︎) (2022年12月3日 1時) (レス) id: 048786881e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：綺桜 | 作成日時：2022年11月18日 0時
