ラベンダーに想いをはせて ページ5
綺麗な空と、澄んだ冷たい空気。
あなたの声は、もう二度と聞こえないけれど。
この人生は輝いていたのだと、胸を張って、言えるだろう。
「〈行きたい場所があるんだ〉」
「〈多分私も、同じ場所に行こうと思ってた〉」
「〈Aちゃん？〉」
「〈うん。かすみ草、おすそ分けしようかなって〉」
「どこ行くの？」
「Aちゃんのところ」
「...お母さんも、行こうかな」
「うん、待ってる」
「〈どこか行ってきたんですか？〉」
「〈Aちゃんにも、お花渡してきたの〉」
「〈...ありがとうございます〉」
「〈春尾くんに話し忘れてたことがあるんだけど〉」
「〈なんですか？〉」
「〈私、昔は日差しに音があると思ってたの。ほら、漫画なんかでギラギラとかさんさんとか、あるでしょ？〉」
「〈ありますね〉」
「〈その話をするといっつも笑われたから、それで良かったんだけど〉」
「〈Aちゃんはね、言ってたの〉」
『〈きっと太陽には音があって、騒がしい世界に生きている私達には聞こえないんだと思います〉』
『〈奈々さんには、私には聞こえない音が聞こえてる〉』
『〈奈々さんは、素敵な耳と心を持っているんです〉』
『〈私達には与えられなかった、素敵なプレゼントですね〉』
「〈そうやって、綺麗に笑ってたの〉」
「〈それがすっごく嬉しくて。救われたとか、そんな大層なものではないけど〉」
「〈私の心に、間違いなく光を見せてくれた〉」
「〈音のない世界は、悲しい世界なんかじゃない。音のない世界は、聞こえない世界じゃない〉」
「俺、もうAちゃんの声がわかんなくなっちゃった」
「だけど、Aちゃんのくれた言葉は覚えてるよ」
「暖かくて、優しい言葉だったことも、覚えてる」
「Aちゃんがくれた、初恋の気持ちも覚えてる」
「失恋の気持ちも、簪が帰ってきたときの気持ちも」
「今でも、Aちゃんはもう居ないって思うと涙が止まらない」
「俺の心の中にいるAちゃんは、もう二度と新しい世界を見せてくれないって、泣きたくなる」
「どうしようもなく苦しくて、どうしようもなく寂しいけど」
「Aちゃんと出会えた世界が、俺は大好きだよ」
「...わ、！」
「〈...花束、いっぱいあるね〉」
「〈それだけ愛されてたんだよ、Aは〉」
白の中に揺れる紫。
ラベンダーに、想いをはせて。
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月紀 - 完結おめでとうございます。silentの作品の中で一番好きな作品で、切なさと儚さに愛を感じられる素敵なお話でした。これからも応援しております。 (11月27日 21時) (
レス) @page6 id: 30b4bd6276 (このIDを非表示/違反報告)
さくら - 世界観がすごく好みの作品で大好きです。綺麗な言葉でつくられた世界に浸れました。完結おめでとうございます。 (8月10日 23時) (レス) @page6 id: 4b5070ea35 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：綺桜 | 作成日時：2023年4月13日 23時
