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鈍器で殴られたような衝撃に、俺はまともに言葉を紡げなかった。口がはくはく動くくせに、音が出ない。
「あ、俺が負けたら服買うんだっけ。じゃあ、俺からも１個お願いあるんだわ」
声が出ない代わりに目で、何？と問う。
「今度ドラマで共演する女優さんと、付き合え」
「、え」
やっと、声が出た。
「相手の女優さんも廉に気があるみたいだし、うちの事務所も彼女の事務所もOKしてる。まあ、実質お見合いみたいなもんだよな」
「ちょ、ちょっと、待ってや」
「大丈夫だって、気にすんな。世間が認める美女だぞ。そんな2人がカップルになれば、バレても世の中はそんなに炎上しないだろ。廉だってこんなに仕事頑張ってきたんだし。あんな綺麗な人と付き合えるなんて十分素敵なことだろ」
「俺が仕事頑張ってきたんは、しょおとの約束果たすためで、
そんな、好きでもない女優さんとなんか、」
「別に廉の恋愛対象、男だけってわけじゃないだろ。ほら、小さい時は幼稚園の先生とか、学校のクラスの女の子に好きな子とかいただろ？普通」
「普通ってなんよ？世間が、世の中が認めるって、どーゆー意味よ？俺としょおやったら認められんってこと？」
確かにいた。幼稚園の時、小学生の時。
好きな女の子はいたし、何人かから告白されたこともあった。
でも中学の時、
『ね、俺彼女できた』
しょおにそう言われた時、死ぬんちゃうかってぐらい、酷く苦しかった。
そのくせ、
『廉、俺別れた』
そう言われた時、苦しいのが一気に消えて、自分の重い恋心を自覚した。女の子に抱いてた気持ちなんかと比べものにならないことくらい簡単にわかった。
普通なんてわからん。
俺の普通は、あの時よりずっと前から、しょおのことが好きってだけだ。
キッときっさんを睨むと、きっさんの目は冷たかった。
「そうだな。お前ら2人は、多分認められないだろうな」
きっさんは、認めてくれてると思ったのに。
「もういい。ここで降ろして」
脇に寄せられた車から降りる時、俺を見ずにきっさんは言った。
「2週間後だからな？逃げんなよ」
家に帰って涙が出た。
いつまで経ってもつかない既読のマーク。返らない返信。
それでも、きっさんには言ってほしかった。
『ぜってー、返ってくるよ。あの紫耀だぜ？いつか、廉のとこ戻ってくるから、安心しとけ』って。
そう、言ってほしかった。
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作者名：むぎ | 作成日時：2023年5月27日 8時
