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「あ、ねぇ海人ー」
「んー？」
「忘れ物した」
「えぇぇぇぇぇ！？あれだけ確認したじゃん、忘れ物ない？って」
「ごめんって！！まぁじですぐ取ってくるからー！」
収録日当日。
家を出てすぐ。
緊張で眠れなかった俺とは違い、紫耀はぐっすり眠れたらしく、いつも通り寝坊をした挙句、いつも通りに忘れ物をした。
「海人ー！あったー！！」
ニッコニコのキラキラスマイルで帰ってきた紫耀。
まあ、そのいつも通りが、安心するんだけどね。
「何忘れたの？」
「んー。ね、海人。ちょっと後ろ向いてよ」
「え、どしたの」
いーからいーから、と後ろを向かされる。
首辺りにひんやりとしたものを感じた。
「ん、俺からのプレゼント」
目に入るのは俺好みのシルバーのネックレス。
「え！？これ、俺に！？」
「この前のお詫び。ごめんね」
ちょっと眉を下げて申し訳なさそうな顔を、俺はぎゅっと両手で包み込む。
「ごめんねは禁止！もういいの。だって紫耀、浮気してなかったでしょ」
「それはそうだけど、心配かけたし」
「それにさ、紫耀俺のこと大好きでしょ。位置情報常に共有してくれるし、連絡とかあんなに嫌いだったのにすぐしてくれるし」
「そりゃそうじゃん！海人のお願いならなんでも聞くもん」
紫耀の、俺に向いた真剣な眼差し。
ああ、俺、愛されてんなー！
「紫耀が俺のこと大好きなので伝わるから。あの日のことは、もういいの。俺今、すっごい幸せだから」
あの日、紫耀と夜を過ごしてから俺の心は満たされるようになった。カッコ良すぎる紫耀に振り回されていた気持ちが、一瞬で安心した。
ネックレスありがとってはにかめば、
紫耀もふわりと笑う。
そんな幸せが壊されるまで、
あと数時間。
『なぁ、約束、覚えてる？しょお』
あの人が
悪役で、
邪魔者で、
俺たちの幸せを
壊しているのだと思っていた。
『思い出したらでええから、
いつでもええから、
待ってるから、
だから、 』
俺がホンモノの邪魔者だなんて、
気づきもしなかった。
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作者名：むぎ | 作成日時：2023年5月27日 8時
