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アパートのドアの前、鍵を握って息をつく。
岸さんの電話に浮かれてたけど、俺と紫耀の関係はまだ何にも元通りじゃない。
それでも、
「ただいま」
静かにドアを開けてリビングを覗くと、
「っ、おかえり！」
ガバっと紫耀の大きな胸に包まれた。
「ごめん、ホントにごめん。連絡しなくて。帰ってこなくて。八つ当たりとかして、ごめん」
ぎゅっと、紫耀の腕の力が入って俺の体をキツく抱きしめる。
ああ、紫耀が、やっと俺のことを見てくれてる。
嬉しくて俺も紫耀の背中にぎゅっと腕を回す。
「紫耀、大好きだから。俺、紫耀のこと大好きだから、愛してるから、」
俺の愛は重い。だからこそ、受け止めたいのだ。紫耀の全てを。
「紫耀、昨日、何があったの」
ダイニングに向かい合わせに座って、ジンや玄樹くんにもらったケーキとコーヒーを並べる。
「紫耀、ケーキどっちがいい？」
玄樹くんにもらったケーキはガトーショコラとチーズタルト。どちらも生クリームが綺麗に飾られていて食欲をそそられる。
「海人は、どっちが好き？」
「俺は、ガトーショコラかな。あ、でもチーズタルトも美味しいんだよなあ」
「じゃあ半分ずつにする？」
「いいの！？」
「俺もどっちも好きで選べないし、半分ずつならどっちも食べれるでしょ」
「やった！じゃあ半分ずつに切ってくる」
半分こにしたケーキを2人でにこにこ微笑み合いながら食べて、コーヒーも飲んで、紫耀は口を開いた。
「あのさ、昨日のことなんだけど。まず、あのお姉さんは、本当に何も関係ない」
「、へ？」
「あのお姉さんのことは、ちゃんと駅まで送っていって、駅でバイバイしたから。また来てくださいって言っただけだから。ほんっとうに、何にもない。浮気もしてない」
最初にそれだけは分かっておいて欲しくてーーーー
紫耀が何か話してるけど俺の張っていた何かがゆっくりと緩んだ。
「よかっっ、たぁ、」
「本当に、心配かけて、ごめん」
紫耀が頭を下げて、その小さな後頭部とサラサラヘアが見える。
紫耀はこんなにも真剣なのだ。
あれ、じゃあなんで、帰ってこなかったんだろ。
なんで、泣いていたんだろう。
なんで、、、。
「その帰りに、会ったんだ。幼馴染に」
俺の疑問を先読みしたかのように、紫耀は震える声で答えた。
「、、、え？」
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作者名：むぎ | 作成日時：2023年5月27日 8時
