国見バースデー 10 ページ32
「あのさ、どっかの誰かさんと違って、自分の誕生日くらい覚えてるよ。それで朝、あんな挙動不審な動き方されたら、なんかあるのかって思うだろ？」
うっ……そっか、みんな普通は自分の誕生日を忘れる、なんてことはしないか。
徹なんて、「今日は何の日？」って毎年聞いてくるもんね。
それじゃあ確かに、びっくりはしないかも……。
国見の驚いた顔が見られないのは残念だ。
また来年、今度はちゃんと計画して……って、ちょっと待って。
私は、鞄の中にしまっていたあるものに気づいた。
まだ、チャンスはあるじゃん。
よし……。
「じゃあ、これはどう？」
そう言いながら、私は鞄のファスナーを開けて紙袋を取り出した。
そう、中にはこの間ハジメと買った国見へのプレゼント。
「誕生日おめでとう、国見」
そう言いながら、私は恐る恐る国見の顔を見た。
両目を見開いて、私が差し出したプレゼントを受け取っている国見が視界に入った。
どうやら、驚いてくれたらしい。
口角が自然と上がる。
もちろん、プレゼントを受け取ってくれたことは嬉しいし、国見の驚いた顔が見られたことも嬉しい。
でもそれ以上に、自分が何かすることで国見の表情を変化させたことが珍しくて、なんだかいつもと立場が逆転したような気がした。
国見は、紙袋の中を覗いて中身を確認したあと、なぜか顔を覆ってしまった。
「……これは、予想出来なかったわ」
小さくくぐもった声に、私は思わず金田一の方を振り返ってしまった。
金田一もあまり普段は見ない国見の表情に苦笑していた。
それすらも嬉しくて、私は飛び上がりたい気分になった。
今日は初めて、1人で誰かにプレゼントをあげた日になった。
私にとってもとてもいい日になったよ。
ハッピーバースデー、国見。
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