【HQ】それは席替えから始まった【岩泉一】

June.8 ページ29

しまった、と思った時には遅かった。


貴「負ける悔しさも、やりきれないもどかしさも、届かない場所があることも全部知ってる」


私は、顔だけ上げて岩泉を見た。

岩泉は少し驚いたような表情をしている。


岩「お前……」

貴「岩泉の悔しさ、分かるよ。今じゃ暇そうに見える文化部だけど、前は運動部にいたから」


そっか、岩泉は知らなかったのか。

私が卓球部だったこと。


貴「でも、私は岩泉ほど真面目じゃなかったからね。だから、余計に分かるんだ」


私は、完全に起き上がると、グイッと岩泉の前まで顔を持ってきた。


貴「中学が終われば高校があって、高校が終われば大学がある。スポーツなんて、どこでも出来ることだけど……」


私は目を閉じた。

中学の時の団体戦。

皆で戦ったあの時間、私が1番輝いてた時だと思う。

イキイキしていたと思う。

私は目を開けた。


貴「ここにいる皆と戦えるのは、今しかないんだよ！自分の好きなことは、好きな人と最後までやらないと後悔するから」


私は、岩泉の黒い瞳をジッと見た。

岩泉はしばらくボーッとしてから、突然笑いだした。

その瞬間、私は自分が臭いセリフを吐いたことを改めて自覚したのだ。

顔から火が出るほど、全身の熱が顔に集まってきた。


貴「わ、笑うなー！」

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