だから、生きて。 (ページ10)

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『後で代わってもらうからね』

下ろしていた足をペダルに乗せた。いつもより強くペダルを踏んだ。

「お、動いた」

翔馬は嬉しそうに声を上げるから、本当に自転車に乗れないのだろうか。

そんな疑問も真夏の炎天下に掻き消される。

きっとこれは無謀すぎる旅。

もしかしたら、私たちは海にたどり着くまでに死んでしまうのでは....。

いや、これは冗談抜きで至極真面目な話で。

「見てA。大きな犬！」

『うん、大きいね』

「ねえあの赤い車、かっこいい」

『本当だ、高そうだね』

翔馬は全てが初めてのような反応をする。

『ねえ、ちょっといい？』

目の前の信号が赤に変わり、ブレーキをかけた。

「ん？」

『とりあえず今のとこ方向的にはあってるはずだけど、海までの道が分からないから途中からどう行けばいいのかわからなくなるよ。』

「ああ、それなら大丈夫。」

『あれ、道知ってんの？』

「いや、知らないけど、わかる」

『は？』

「心配しないで、これがある」

『え？』

翔馬が取り出したのは、4つ折りにされた古い紙だった。所々破れているけど、テープで丁寧に直されている。

「持ってきておいてよかった。確かに道分からないと困るもんね」

『地図？』

「うん、大体今はここら辺でしょ。だからここを真っ直ぐ行けばいい。」

翔馬が持っていた地図を開くと、私たちが住むこの町と、海辺の町が赤い線で繋がれていた。

「この線を辿って行けば、海まで行ける。一緒に見ながら行けば大丈夫だよね？」

『うん、まあ、なんとか行けるかも』

「頼んだよ、A。信用してる。」

『信用されてもねえ....。』

「いっぱい応援してる」

『応援かよ』

翔馬が満足気に笑ったところで、信号が変わった。

私はまた思いっきりペダルを踏んだ。