だから、生きて。 (ページ1)

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夏休みの校舎はやけに静かだ。

聞こえるのは、自分の足音と外で鳴いてる蝉の声。

屋上の鍵が壊れているのは、知っていた。いや、この学校の生徒は誰もが知っている。

私は “立ち入り禁止” と書かれているロープを無視して、最上階のその先の階段を駆け上がった。

ガンガン照りつける太陽に嫌気がさす。

私は屋上の縁に立って深く息を吸った。

ここから地面までどれくらいかかるのだろうか。あっという間か、それとも長く感じるのだろうか。

走馬灯ってどんな感じ？まあ18年間しか生きていないし、大したことはないのだろう。

一度目を瞑り、足元を見る。

怖くないと言えば嘘になる。

だけどたった一瞬のこと。

その一瞬で全てを終わらせることができるなら、恐怖も痛みも耐えられる気がする。

肌にまとわりつくような生ぬるい風が吹く。

どこまでも続く青い空と、煩いほどの蝉の鳴き声。

額の汗を拭って、もう一度深く息を吸った。

右足を、宙に投げ出した。

「ねえ」

声が聞こえた。

宙に投げ出した右足は踏み出すギリギリで止まる。

「ねえ」

空耳か。だって屋上には私しかいない。多分。

「ねえ、きみ。聞こえてないの？」

そこまで言われると流石に無視できない。

でも後ろを振り向いても誰もいない。

やっぱり空耳か。いやでも確かに誰かの声だった。

まさか、幽霊？

「上だよ、上。」

つられて顔を上げた。

そこは、扉のちょうど真上。私よりも空に近い場所だった。

「遅いよ、気づくの。」

目が、印象的だった。

くりくりとした大きい目、透き通るような白い肌。

本当に幽霊なのかと思った。

彼は、照りつけるような太陽の下で、涼しげに笑っていた。