吉 原 の 花 ３

油断は禁物３ ページ43

童磨side

「…………………なんで。」





俺の顔色などお構い無しに、君は続ける。





『私には大切な人が出来たの。』






その言葉を聞いて


先程ピシリと音を立てた何かは、ボロボロと崩れ落ちる。







俺は今、腹が立っている。









なんで。俺はこんなに君に翻弄されなきゃいけないんだ？



今にでも首をねじ曲げることは容易いのに






何故か君に手出しが出来ない。




それがまた腹立たしい。









「…………ぃじゃないか…」






『…？』






「……ずるいじゃないか。」






腹が立っているのに、涙が出ていた。




俺の皮膚より熱い何かが、頬を伝っていく。





痛い。





もうどこかに捨てたはずだったのに、









心が、痛い。









『童磨さん…？、……泣いてるの？』






「ずるいんだよ。君は。」





そんな甘い匂いで俺を誘っておいて







いざ近づいてみれば茨だらけで触れやしない。









それでも君は魅力的に咲いて






結局俺はまた手を伸ばす。









手を伸ばせば、茨で俺の手は傷だらけになる。







「っ……ううっ…」





涙が溢れて、訳が分からなくなった。


わざとじゃなく、こんなに泣いたのは


生まれて初めてだった。








『…』






君は何も言わず、着物の袖で俺の涙を拭った。





涙でぼやけた視界の中に、たしかに君を捉える。



月に照らされた君の美しさに


俺はまた心奪われる。








『………やっぱり貴方の目、綺麗ね。』









.









手はもう茨で血だらけだ。





なのに君は俺を諦めさせてくれなくする。









「(…………ほんとに、ずるい。)」

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