パン屋、始めました。

003 ただいま ページ3

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コブラからお墨付きを貰ったところで、あたしの話は一旦終了して、この街のこと、SWORD地区で起こったことを色々と聞いた。龍也さんが事故で亡くなったこと、ムゲンも解散したこと、コブラを総長に山王連合会というチームを作ったこと、ノボルのこと、SWORDが潰されそうになったこと、……。本当にキリがないくらい、たくさんのことがこの5年間で起こっていた。いい話もあったけれど、それ以上に、辛くて苦しいことが、たくさん。






「琥珀さんは、今もどこにいるか俺達にもわかんねえ」
「……そっ、か」






あたしはただ、コブラ達から聞くだけで、なにも、なにも返すことが出来なかった。もしそこにあたしがいたとしてなにかができた訳じゃないだろうけれど、それでも、心がギュッと掴まれたように、痛かった。







「……5年ってさ、意外と長かったんだね」
「……何当たり前なこと言ってんだよ」
「ナオミ、……だって」
「だってもなにもねえだろ」






厨房に立ってあたし達に背を向けるナオミ。シンと静まり返る店に、彼女の作業する音だけが響く。






「過去は変えられないし、変わらない。あたし達は今を生きていくしかないからな」






その背中は昔よりもずっと、ずっとずっと、たくましく見えた。いつだってナオミは正しくて、かっこよくて、強くて。






………今を、生きていく、か。





「パン屋、最低3年は続けろよ。ほら」
「わ、オムライスだ……」
「Aの好きなチーズ入り」
「チーズ！ うわ〜ありがとう、ナオミ！」
「どういたしまして。……それと、」






たしかにその通りかもしれない。コブラも、ヤマトもノボルも、ダンもチハルくんも、皆が前を向いている。








「おかえり、A」








5年という空白が空いてしまったけれど、あたしも、この先を見据えて生きよう。






「ただいま、皆」









吉澤A、パン屋、始めます。









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