是非に及ばず−現代鬼殺隊−【煉獄杏寿郎】

8. 鬼狩りと呼ばれた彼 ページ8

私は、目の前の状況を上手く処理出来きずにいた。



火の粉がチリチリと吹き上がったと思うと、ピエロの断末魔が暗闇にこだまする。



ピエロの腕がぼとりと下に落ちた。



と同時に圧迫されていた私の首も解放され、強く咳き込んだ。



私の目の前に黒い帽子に黒い服を着た、後ろ姿の男性が立っている。



「遅くなってすまない、怪我は？」



帽子から金色の獅子のような髪の毛が見える。毛先が炎のような深紅に染まっていた。



「だ、大丈夫です。」



あの人だ…、昨日私を助けてくれた幽霊。



チャキッと独特な金具音と共に、刀が抜かれ、彼の羽織がはためいた。



その刀は燃える炎のように赤く輝き、刃文は黒々と鋭い光を放っている。



「刀…。昨日邪魔したのもお前だな。」



ピエロが恨めしそうに睨むと、後ろへ後退りした。



「この人を喰うことは俺が許さない。」



「くくく。なるほど、鬼狩りか。」



ピエロが切られた腕をもうひとつの腕で押さえている。腕から滴り落ちる血の色は炭のように真っ黒だった。



「今日のところはこれで引き上げるとしよう。お嬢さん、またお会いしましょう。」



そう言うと、ピエロは不気味な笑い声をあげながら暗闇にゆらりと消えていった。



辺りに静けさがもどる。



黒服の男性が鞘に刀を納めると、私の身体は急に力が抜けて、ペタンとその場でへたり込んでしまった。



助かったんだとホッとして地面に手をつき深く息をする。



ふと私の目の前に黒いコンバットブーツがこちらを向いていることに気づいた。



恐る恐る顔をあげると、口に弧を描いて彼が笑っている。



「立てるか？」



黒く光る手袋をはめた手のひらを私の前に差し出した。



そっと彼の手のひらに私の手をのせると、きゅっと握られる。



暖かな温もりが伝わってきた。まるで生きている人間のようだ。



ゆっくり引っ張られるように、立ち上がる。



「間に合って良かった。もう少しで鬼に喰われるところだった。」



「お、鬼？」



「うむ、どうやら君はあの鬼に狙われてしまったようだな。」



鬼って、あの昔話に出てくる鬼のこと？



「あるお方の命令で俺は君を助けにきた。君にはしばらく俺と行動を共にしてもらう。」



「行動を共にって、あなたは幽霊じゃないの？」



私の言葉を聞いて彼はフフっと笑った。



「安心しろ、俺は人間だ。」



彼の見せた少年のような笑顔に、私はただただ彼を見つめるばかりだった。

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