是非に及ばず−現代鬼殺隊−【煉獄杏寿郎】

35. 不安 ページ35

「……おに？おにとは、昔話にでてくるあの鬼のことかね？」



監視官は眉をひそめ、口を半分開いたまま、正気かと疑う目つきで煉獄さんを見た。



「そうです。トンネルのなかで、鬼に襲われたので、やむ終えず刀で交戦しました。」



一切ぶれることのない煉獄さんの言葉に、諏訪部監視官は大きな声で笑った。



ひと通り笑ったあと、



「ばかも休み休み言いたまえ。この時代に鬼など…何を寝ぼけている。」



怒りを通り越して、呆れた声で吐き捨てた。



「いいか、事故車のドライブビデオをすべて確認したが、彼以外何者も車外に写ってはいなかった。トンネル内の監視カメラもすべて。」



「そんな…。」



「３台の事故車の運転手にも病院で聞き込みを行ったが、君以外何も見えなかったと言っている。ただ、車が勝手に横転したと。」



「そんなはずないです！わたしこの目で見たんです！鬼が車を操って宙に浮かせて…」



「A!お前まで鬼がいたと言うのか。」



「本当なんです、信じてください！煉獄さんの額の傷だってピエロが斬りかかって…」



「ピエロだと？」



「そうです、ピエロの姿をした鬼が煉獄さんを襲って、……諏訪部さん？」



監視官の顔は急に真っ青になり、一転を見つめて体は固まったように動かなかった。



「どうしたんですか？」



私の声かけにハッとするように我に返った諏訪部さんは



「…いや、何でもない。」



そういうとソファーから立ち上がって、体の向きを返ると窓際に早足で歩いた。



「とにかく、これから事情聴取を行う。煉獄くん、君は先に外にいる者が聴取室へ連れていく。それまでAはここで私と残るように。」




窓の外を見たまま、先程と様子が違う諏訪部さんに私の頭は追いつかず戸惑うなか、煉獄さんはスッと立ち上がった。



「分かりました。それでは先に、失礼致します。」



そう言って一礼すると、戸惑う私の肩にそっと彼が掌をのせた。



ハッと煉獄さんの顔を見ると、彼が小声で私に一言話しかけた。



そのあと眉を少し下げて微笑むと、諏訪部さんに一礼して部屋を出ていく。



私は彼が部屋を出ていくまで、彼の姿から目を離すことができなかった。



煉獄さんの声は聞こえなかったけど、確かにこう言った。






「鬼に気をつけろ」





部屋の重いドアがバタンと閉められた。



煉獄さんから香る品のいい藤の花の匂いだけが、微かに私のそばに残っていた。

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