20. 炎の虎 ページ20
「それじゃ、これから料理の最後の仕上げといこう。」
ピエロの指がミシミシと私の頭部を締め付ける。
「お前の、子供の頃の一番最悪な思い出は、何だ?」
ピエロが不適に笑って言う。
すると映画の駒送りのように、私の子供の頃経験した、最悪の日の出来事が頭の中で勝手に流れた。
それは一瞬の出来事だったが、その当時の記憶や気持ち、感情をもう一度経験したような感覚。
「…あぁ、素晴らしい。」
ピエロが、陶酔しながら私を見つめている。
まるで、美しい芸術品を愛でるような眼差しだった。
涙が勝手に溢れてきた。
私は食べられてしまうのか。
アクセルを踏み込む力が弱くなる。
ピエロが口を大きく開けた。
私の頭部など簡単に飲み込めるほどに。
煉獄さんっ。
心のなかで彼を思った。
−刹那。
轟音と共に炎に包まれた焔色の虎が、前足の爪を立ててピエロに飛びかかった。
突然ピエロは聞くに耐えない程の金切り声を上げる。
耳にこびりついて離れないような気味の悪い悲鳴に、私は思わず身を竦めた。
すると、ピエロの身体はお腹からぱっくり割れて、上半身と下半身、バラバラになり道路に転げ落ちる。
何が起きたのか分からずにいると、
「まったく不甲斐なしだ、二度もAを危険な目に合わせてしまうとは。」
声のする方へ顔を向けると、黄色と赤の髪の毛を風に揺らしながら、彼が車の屋根に立っていた。
「煉獄さん!!…っ良かった!!」
張りつめていた気持ちが解けて、嬉しさで声をあげる。
額から出血して目元まで血が覆っていたが、命に別状は無さそうだ。
生きていてくれて本当に良かった。
思わず涙ぐみそうになり、きゅっと唇を結ぶ。
「アクセルを踏め、このままトンネルを抜けよう!」
彼の指示に「はい!」っと返事をすると、私はアクセルを踏み込み、スピードを上げた。
彼を屋根に乗せたままトンネルの出口を一気に抜けると、太陽の光が眩しくて、私は思わず目を細めた。
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俺は車の上で鞘に日輪刀を納めながら、今抜けたトンネルを見た。
出口付近の太陽が当たらない暗闇で、鬼が道路を這いつくばったまま口惜しそうにこちらを睨んでいる。
絶対に許さないと、憤怒に燃えた目つきだ。
でもそれは風をきる音と共に、だんだん遠ざかって見えなくなった。
風の鳴る音が、どこか泣いているようにも聞こえた。
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favo(ふぁぼ)(プロフ) - 柚葉さん» 柚葉ちゃん!お久しぶりです☆ありがとう〜😆またちょっとずつ書いていくのでよろしくねぇ☆ (2022年12月22日 7時) (レス) id: 507a9cc00c (このIDを非表示/違反報告)
柚葉(プロフ) - ふぁぼちゃん、お久しぶりです。完結おめでとうございます。これからも頑張ってね😆 (2022年12月22日 4時) (レス) @page50 id: d20b43a216 (このIDを非表示/違反報告)
favo(ふぁぼ)(プロフ) - チェケラさん» こんばんは!チェケラさん、コメントありがとうございます!わー!大好きって言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます!少しずつの更新で待たせてしまい申し訳ないですが、頑張りますのでどうぞよろしくお願いします! (2022年12月14日 0時) (レス) id: 507a9cc00c (このIDを非表示/違反報告)
チェケラ - コメント失礼します! favoさんの小説毎日読ませてもらっています!favoさんの小説とっても大好きです! これからも連載頑張ってください! (2022年12月12日 21時) (レス) @page27 id: df31792cbc (このIDを非表示/違反報告)
favo(ふぁぼ)(プロフ) - gn001yukaringoさん» わぁ〜!コメントありがとうございます!とても嬉しくて、また頑張ろうと思えました。ありがとうございます!完結まで頑張りますので、どうぞよろしくお願いします! (2022年6月16日 20時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:favo(ふぁぼ) | 作成日時:2021年10月7日 18時